西加奈子『きりこについて』

西加奈子『きりこについて』

 

きりこは、ぶすである。

文豪・夏目漱石の『猫』の出だしは超有名だ。「吾輩は猫である。名前はまだ無い。」
西加奈子氏の『きりこについて』の出だしも、同じくらい衝撃的だ。

きりこは、ぶすである。
page5

ただの「ぶす」ではない。太字の「ぶす」である。

西加奈子『きりこについて』

西加奈子『きりこについて』

でもこれだけならまだ、衝撃的というほどではない。
が。

この一文に続く章、文庫本では8行分の章でもぶすが繰り返される。3回も。最初の一文と合わせれば9行で4回、太字のぶす

その後もぶすは何回も何回も登場し、その都度、必ず太字だ。

さらに、書かれている内容。

きりこがいかにぶすであるかの説明が、延々と続くのである。

まずは容貌の詳細から。顔のパーツひとつひとつを、どこがどうぶすなのかを、念入りに解説。
つぎは、ぶすが故の数々のエピソード。

きりこの公園デビューは、センセーショナルであった。いや、きりこは、その容姿から、初登場する場所ならどこでも、衝撃を誰かに与える子供であった。
page20

公園デビューにはじまり、幼稚園・小学校と、描写は続く。どこでもきりこは強烈なインパクトを人々に与えた。それほどにきりこはぶすだったのだ。

しかも奇妙なことに、きりこ自身は、自分がぶすだとは夢にも気づいていなかった。きりこは一人娘で、マァマもパァパもきりこをそれは可愛がって育てた。二人とも本気で「きりこちゃんは可愛い」と思い込んでいたので、二人が「可愛い」と唱え続けたのは決して嘘でもおだてでもない、本心である。だからきりこも、両親の言葉を疑わずに育ったのだ。

さらに、きりこには、あるカリスマ性があった。幼い友人たちは、なんとなく「うっとり」したまま、きりこの忠実なとりまきとなった。きりこはいちばんの人気者だった。

小学校5年までは。

ところがある日、子供たちは突然「ぶす、やわ!」と気づいてしまったのである。あっという間に彼らは去り、きりこはやがて不登校となり、昼夜逆転の引きこもりとなり、一切の交際を絶ってしまった・・・・・

*****

きりこは人間たちとの交際を絶ってしまいますが、孤独ではありませんでした。きりこにはラムセス2世がいたからです。きりこが小学生だったころに体育館の裏で拾った黒猫です。

ラムセス2世はふつうの猫ではありませんでした。IQ740の頭脳で、きりこと話すことができました。きりこは猫たちをよく理解するようになります。猫たちも、きりこが大好きになりました。猫には、人間女性の外見上の美醜なんて、全く関係ありませんからね。

猫たちのお陰で、きりこは何が大切か、ひとつひとつ学んでいきます。人間として、たくましく成長していきます。

猫好きにとってこの本が愉快なのは、猫がとことん持ち上げられていること。猫の考え方、猫のものの見かた、猫の生き方、猫の眠り方。すべてが人間のそれとは違っていて、そして、常に猫の方が絶対的に正しい!

そう、猫こそが人間の師匠、見習うべき存在だと、全編いたるところで偉そうにほざいている本なのです(「語って」なんて単語より「ほざいて」という単語の方がふさわしく思われる雰囲気で)。そりゃだって語り手は猫ですからね、偉そうにふるまうのは当然です。

扱っている内容は、ぶすな女の子の運命や、いじめや不登校や引きこもり、さらにレイプや偏見など、重くなりがちなテーマばかりです。けれども暗さはありません。ラムセス2世のような猫が絡んでいては、暗くなりようがありませんね。セックスとかAVなんて言葉もポンポン出てきますが、そういう場面の描写はありませんので、いやらしさもあまりありません。

ラムセス2世の、一番最後の章だけは、猫好きな私としては余計だったけれど・・・

この本を読んで、力を貰える人は多いのではないでしょうか。高く評価する人が多いのもうなづけます。
もしあなたが、「もはや”セックス”という文字を見ただけでドキドキするような年齢ではないけれど、”ぶす”と言われたら今でも深く傷ついてしまう」ような世代であれば、とくにお勧めです。猫好きであれば、なおさら。ぜひお読みください。
(私?あはは、もう少し上です。「ぶす?トポロジー的にはみんな一緒じゃん」と笑えるような世代・・・)

西加奈子『きりこについて』

西加奈子『きりこについて』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『きりこについて』

  • 著:西加奈子(にし かなこ)
  • 出版社:株式会社KADOKAWA 角川文庫
  • 発行:2011年 c2009
  • NDC:913.6(日本文学)小説
  • ISBN:9784043944811
  • 217ページ
  • 登場ニャン物:ラムセス2世、おぼんさん、他多数
  • 登場動物:

 

著者について

西加奈子(にし かなこ)

2004年『あおい』でデビュー。08年『通天閣』で織田作之助賞受賞。主な著書に『さくら』『きいろいゾウ』『しずく』『窓の魚』『炎上する君』『円卓』『漁港の肉子ちゃん』などがある。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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西加奈子『きりこについて』

8.5

猫度

8.5/10

おもしろさ

8.5/10

猫好きさんへお勧め度

8.5/10

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