福岡伸一『生物と無生物のあいだ』

福岡伸一『生物と無生物のあいだ』

生物とは、生命とは、そもそも、何なのか?。

著者は「プロローグ」でまず問いかける。

そもそも、生命とは何か、皆さんは定義できますか?

さて、あなたなら何と答えますか?

著者は分子生物学者である。
生命を、分子さらに原子のレベルまで追及して、生命活動という化学反応を、ひとつひとつ調べ上げていく。

本は、多くの日本人にとっては意外なスクープからはじまる。
我らが(?)偉人、野口英世の、業績に関する暴露である。

数々の病原体の正体を突き止めたという野口の主張のほとんどは、今では間違ったものとしてまったく顧みられていない。
(p.21)
さて、ただひとつ、もし公平のためにいうことがあるとすれば、それは当時、野口は見えようのないものを見ていたのだ、ということがある。狂犬病や黄熱病の病原体は当時まだその存在が知られていなかったウィルスによるものだったのだ。(中略)ウイルスはあまりに微小すぎて、彼の使っていた顕微鏡の視野の中に実像を結ぶことはなかったのである。
(p.23)

さらに、ワトソンとクリックについて。
二人は遺伝子DNAが「二重ラセン構造」をしていることを発見し、ノーベル賞を受賞した。
二十世紀の生命科学史上、最大のスターたちであることは間違いない。

が、彼らの大発見は、まったく彼ら単独でなされたわけでは無論なかった。

ワトソンとクリックの前には、名もなき功労者たちの膨大な研究が土台としてあり、また彼らに(本人も知らぬ間に)資料を提供した、同時代の不運な科学者もいた。
本はそんな「縁の下の力持ち(アンサング・ヒーロー an unsung hero)」に焦点を当て、長い章を費やす。

そのような、科学者世界の裏話も面白いけど、やっぱり私は、もっと純生物学的な話がもっと面白い。
細胞は、どうやって、必要なものを取り入れ、そして、排出しているのか?
どのくらいの大きさまで出入りが可能?結晶のような塊のまま?原子に分解されなきゃだめ?
どのくらいの速度で新陳代謝が行われているのか?
生物の仕組みって、なんて絶妙で巧妙で微妙なんだろう!
こういう話は何回聞いても、毎回その都度、感嘆せずにはいられない。

ところで、冒頭の質問に対して。
本を読む前に私が考えた「生命の定義」とは、次の3つだった。

1.ある期間、特定の「秩序ある状態」であり続けること。
2.増えること。
3.ヒトがそれを見て生命だと思うこと。

1と2はともかく、3は「なんて非科学的な!」と怒られそうな回答だけれど、私としてはこれも外せないポイントじゃないかと思う。
なぜならふつうの判断能力を持つふつうの人なら誰だって、何が生物で何が無生物か、一瞬で見分けるではないか?
であれば、そこにはきっと何かしら確固たる基準があるのではないだろうか?ヒトがそれを意識していないというだけで。
(そもそも、あるものを「生物」か「無生物」かを「決定」するのも「人」である、という事実もあるけれど。)

で、私の回答は正しかったのだろうか?

それこそ、この本の重大なネタバレになっちゃいますから、残念ながらここに書くわけにはいきません。ごめんなさい。
ぜひ本を入手して、ご自分で読んでみてください。

専門的な部分もあり、分子生物学に慣れ親しんでいない人には少し難解な場所もあるかもしれないけど、全体としては、分子生物学とは無関係な人でも無理なく楽しく読める本となっています。
というか、生物学とは無関係な人向けの一般書(もしくは入門書)ですね、これは。

最後に、ちょっとだけ残念だったこと。
それは、最大の謎「どうして生命が誕生したのか?」についての言及がなかったこと。

人類にはまだ、生命誕生の謎は謎のままなのだから、言及が無いのは仕方ないとはいえ、生命の不思議をこれほど見せつけられる(魅せつけられる)と、ますます、「どうして?どこから?なぜ?誰がいつどうやって?」と、不思議でたまらなくなる。

やっぱり・・・
神様なんでしょうかねえ?

(ところで、ネットでレビューを拾い読みしてみたら、「生物とはなにかについて書いてない」と書いている人が多いのに驚いた。私は本にバッチリ明確に書いてあると思ったのだが!)

PS.
猫はまったく出てきません。

(2011.12.3.)

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

『生物と無生物のあいだ』

  • 著:福岡伸一(ふくおか しんいち)
  • 出版社:講談社現代新書
  • 発行:2007年
  • NDC:460(生物化学・一般生物学)
  • ISBN:9784061498914
  • 285ページ
  • 登場ニャン物:-
  • 登場動物:

目次(抜粋)

プロローグ
第1章 ヨークアベニュー、66丁目、ニューヨーク
第2章 アンサング・ヒーロー
第3章 フォー・レター・ワード
第4章 シャルガフのパズル
第5章 サーファー・ゲッツ・ノベルプライズ
第6章 ダークサイド・オブ・DNA
第7章 チャンスは準備された心に降り立つ
第8章 原子が秩序を生み出すとき
第9章 動的平衡(ダイナミック・イクイリブリアム)とは何か
第10章 タンパク質のかすかな口づけ
第11章 内部の内部は外部である
第12章 細胞膜のダイナミズム
第13章 膜にかたちを与えるもの
第14章 数・タイミング・ノックアウト
第15章 時間という名の解けない折り紙
エピローグ

著者について

福岡伸一(ふくおか しんいち)

東京生まれ。京都大学卒。ハーバード大学医学部研究員、京都大学助教授などを経て、現在、青山学院大学教授。専攻は分子背仏学。著書に『もう牛を食べても安心か』(文春新書)、『プリオン説はほんとうか?』(講談社ブルーバックス、講談社出版文化賞科学出版賞受賞)などがある。2006年、第1回科学ジャーナリスト賞受賞。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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