大佛次郎『猫のいる日々』

猫を500匹以上も飼った作家!
古今東西、猫を愛した作家は多いけれど、世界に冠たるは、大佛次郎氏か、ヘミングウェイ氏か。
生涯に500匹以上のネコを飼ったというから、並の猫好きではない。猫キチという呼び名の方が似合うだろう。 家には常に10匹を越す猫がいた。最初は猫嫌いだった夫人も、猫菌に冒されて、大佛氏以上の猫好きになってしまった。
あるとき大佛氏は言い渡す。
「猫が十五匹以上になったら、おれはこの家を猫にゆずって、別居する」。
ところが、ある日「念のために数えてみたら十六匹いたことがあったので、女房を呼び出した。
『おい、一匹多いぞ。おれは家を出るぞ』
と言ったら、
『それはお客様です。御飯を食べたら、帰ることになっています。』
で、その通いの一匹はどうなったかというと、
「ある日、『通いが引っ越してきました。子猫を一匹連れて』・・・(中略)・・・通いは、その時から親子で住込みに昇格した。」
大佛氏を猫好きと知って、無責任な連中が次々と猫を捨てに来る。怪しい人物を家の周辺に見かけるたびに、
「おい、猫を捨てるなよ」
と忠告するが、それでも捨て猫があとを絶たない。
「うちの猫は足が悪くて汚くて困る、お宅で飼ってください」
なんていう無神経な電話もかかってくる。
大佛氏はほとほと困ってしまう。
「一匹の猫ならかわいいが、一五匹もいるとかわいいなんてものじゃない」
しかし、旅行にいけば夫婦で猫を探してまわる。山寺の猫は、なんせ寺は生臭い物を嫌うから、魚なんか食べられないだろうと干物を買い、寺の住民に見つからないように猫達に配ってくる。
自分たちの墓を用意するに当たって猫達の墓も一緒にしようとして老母に嫌がられたり、来世は猫に生まれ変わりたいと願ったり。
惚れ惚れするような猫キチである。
「猫のいる日々」には、大佛氏が書いた猫エッセイと猫小説・童話のすべてが収録されているそうだ。これほどの猫好き作家が、わずか一冊の文庫本にまとまってしまう程度にしか猫物を書いていないというのは残念だ。まったくもって惜しい。あまりに猫に取り憑かれていたから、かえって書けなかったのかもしれないが・・・
・・・しかし、この一冊だけでも、大佛氏の猫にかけた情熱は十分に伝わってくる。
(2002.8.6)

大佛次郎『猫のいる日々』裏表紙

大佛次郎『猫のいる日々』
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『猫のいる日々』
- 著:大佛次郎(おさらぎじろう)
- 出版社:徳間書店 徳間文庫
- 発行:1994年
- NDC:914.6(日本文学)随筆、エッセイ
- ISBN:9784198902148
- 349ページ
- 登場ニャン物:小とん、シロ、アバレ、アバ子、たま、ふう、頓兵衛、黒、バギイラ、赤、隅の隠居、ミミ、小僧、六之助、熊
- 登場動物: -