杉作『日々是 犬猫かぞく』―でんぢらう日記―
文明開化のガンコオヤジを面白おかしく。
『「日々是 犬猫かぞく』は、コミック乱で連載されていた「でんぢらう日記」より犬や猫、動物にまつわるお話を抜粋したものです。
明治時代の一家族大村家に起こるさまざまな出来事を、主人公傳治郎を通してコメディタッチで描きました。』
(あとがきより)
登場人物/動物は、
・猫のミャー(2歳♂)
・犬のドン(1歳♂)
・大村傳治郎(45歳)
・妻、絹江(33歳)
・長男、清太郎(8歳)
・長女、美弥(4歳)
・兎のうさ吉
でんぢらう(傳治郎)は、、会津藩出身の元武士。
背広を着て印刷局に通勤しているが、内面は、文明開化の勢いにてんでついていけてない。
家に帰れば、裃をつけ、大小二本差しにして
「うむ!やはりワシにはこの恰好が一番じゃ」
と頷く頑固者である。
妻子には、ことごとに、時代が変わっても武士の心を忘れないことが大事なのだと説く。
牛肉やラムネを嫌い(しかし一度食べればたちまちその美味しさに目覚める)、やたらと取り繕って、空威張りに威張っている。
典型的な明治の亭主関白である。
しかし、家族に威張りちらす男こそ、実は気が小さく根が優しい、というのは、でんぢらうとて同じこと。妻子の為に涙ぐましい努力もする。
犬猫も連れての「家族総出」で動物園見学にいこうとして、乗合馬車に犬猫の乗車を拒否されると、妻子だけを馬車に乗せ、自分は犬を引き猫を抱いて馬車の後を「ぬおぉ」と走る。
いざ動物園に着けば、子供はもちろん、妻まで肩車で動物を見せてあげ、迷子になった猫を探しまわり、最後には疲労困憊のあまり路上に倒れて爆睡。
こんなパパだから、どれほど威張ってみせても、妻子は笑ってついていくんだね。
男の片意地とペーソスをコミカルに描いた、ほのぼのファミリーコミック。
最初、明治初期の設定かと思った。
が、上野動物園にトラやゾウを見に行く場面もあり、上野動物園にトラが来たのは明治20年、アジアゾウ夫婦が21年だから、明治中期の時代設定ということになる。
明治中期といえば。
内閣総理大臣は伊藤博文、黒田清隆、等。明治22年には大日本帝国憲法発布、日本もやっと立憲君主国の仲間入りをする、文壇では、二葉亭四迷が「浮雲」(明治20年)で言文一致体の小説を発表、一方、その3年後に出た森鴎外「舞姫」はまだ堅苦しい文語体だった。
そう、文明開化の嵐が吹き荒れる中、江戸の文化風習がまだまだ残っている時代だった。良きにつけ、悪しきにつけ。
そして多分、日本人が、平成の今よりエネルギッシュで、理想が高く、活気あふれる時代だった。
中々面白く存知候(ぞんじそうろう)故(ゆえ)、是非御勧めな一冊にて御座候(ござそうろう)。
(2014.8.3.)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『日々是 犬猫かぞく』
―でんぢらう日記―
- 著:杉作(すぎさく)
- 出版社:リイド社
- 発行:2013年
- NDC:726(マンガ、絵本)
- ISBN:9784845844029
- 登場ニャン物:ミャー
- 登場動物:ドン(犬)、うさ吉(ウサギ)
目次(抜粋)
第一話 父親は孤独で候
第二話 ハイカラな飲み物
第三話 動物園へ行く
第四話 薩摩の巡査
第五話 清太郎の作文
第六話 うさぎブーム
第七話 馬駆
第八話 ミャーの休日
第九話 優犬ドン
付録
日々是猫わずらい
後書き