杉作『猫なんかよんでもこない。』

売れない漫画家を救った捨て猫たち。
オレ、26歳、プロボクサー(4回戦)。
漫画家のアニキのアパートに居候して、トレーニングに励んでいる。
もちろん、目指すは世界チャンピオン。
の、はずだったのに。
アニキが子猫の兄妹を拾ってきた。
「だってこのアパート ペット禁止だろ―」
「いや~ 死にそうで もらい手がみつかるまでサ」
「そんなカンタンにもらい手なんか見つかんのか? しらねーぞ オレ」
オレは反対したが、アニキは全然気にしないどころか、
「じゃ あとの世話 頼むぞ」
と、オレにあっさり猫の世話を押し付けやがった。

杉作『猫なんかよんでもこない。』
猫なんか好きじゃなかったけど、オレは無職で居候の身である。逆らえるわけがない。
しかたなく、猫達の世話をする。
と、ある日突然、無責任アニキ、なんと田舎に帰ってしまった!
オレと、わずかなお金と、猫たちをアパートに残して。
「世界を目指すオレサマが、ね、ねこの世話かよ・・・」
最初はジャマなだけだった子猫たち。
が、一緒に暮らしているうちに、どんどんオレの心に入ってくる。
オレは試合に勝ったが、怪我を負い、プロボクサーの道を断たれてしまった。
突然前途を絶たれ、ダラダラと日々を過ごす。
金もなく、職も無く、猫缶に醤油をかけて猫たちと一緒に食べるような生活(あとで獣医にやんわり止められる)。
世界チャンピオンの夢が、クロを近所の猫ボスにするという、あまりにささやかな夢にとって変われらる。
が、それさえ、かなうかどうかわからない。
クロは気弱な雄だった。
* * *

杉作『猫なんかよんでもこない。』
都会の片隅で、ひとりの男が、もがきながら暮らしている。
何も持たず、誰にも評価されず、猫たちだけを心の支えとして。
いや、猫たちは「心の支え」なんかじゃなかった。
もちろん、心も支えてくれたけど、さらに生活まで支えてくれたのだ。
収入の道を開いてくれたのである。
ボクシングを止めた男は、漫画家になろうと思い、せっせとボクシングマンガを描いた。
が、何回応募しても落選ばかり。
30歳を越えてもまったく芽が出ない男に、周囲は「もうあきらめろ」と放言する。
ところが、これを最後と半ばヤケクソで描いた猫マンガが、いきなり受賞したどころか、連載まで決まったのだ。
猫たちは、命を救われた恩を忘れていなかった。
雪の日に命を救われた捨て猫たちは、男を精神的にも経済的にも救ったのだ。
1コマ1コマに、猫への愛情を感じる。
男の行為に笑ったり、「そう、そう、猫ってそうよね」と頷いたり、ほろりときたり、涙したり。
男性漫画家の絵柄としては珍しいくらいに、猫たちは、額が大きく丸く、手足が短く、要は幼児体型なのだが、そのデフォルメにも愛情を感じる。
ボスの野良猫さえ幼児体型。
こんな愛らしい猫達が、しかし、野良として、非常に苛酷な生活を送っている。
まぁるい額の裏に隠された、情け容赦のない日々。
そのギャップにゾッとする。
とてもとてもお勧めです。
(2014.5.30.)

杉作『猫なんかよんでもこない。』
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『猫なんかよんでもこない。』
その1~
- 著:杉作(すぎさく)
- 出版社:実業之日本社
- 発行:2014年(その1)
- NDC:726(マンガ、絵本)
- ISBN:9784408411644(その1)
- 登場ニャン物:クロ、チン子、その他多数
- 登場動物:-
目次(抜粋)
第1章 捨てられました
第2章 我が家に猫がやってきた
第3章 オレはボクサー
第4章 夢やぶれて
第5章 君と暮らせば
第6章 チン子、恋をする
第7章 クロ、闘う
特別編 猫とクリスマス
第8章 バイト始めました
特別編 ダッシュ猫
第9章 傷だらけのクロ、ボスになる
第10章 挑戦の果て
第11章 ずっと一緒
特別編 なにげない日々
あとがき クロとチン子、そして兄貴に