『しっぽの声』第5巻 作画:ちくやまきよし、原作:夏緑、協力:杉本彩

『しっぽの声』第5巻

 

「人間は、動物を飼うにはまだまだ未熟で無知すぎるんだよ。」

日本では、小さな犬が大流行です。従来の柴犬より小さな豆柴、さらに小さな小豆柴。スタンダードプードルとくらべかなり小さいトイプードルを、さらに小さくしてティーカッププードル、それでも飽き足らずマイクロティーカッププードル。

その潮流は、もともと世界最小犬種だったチワワにまでも及んでいます。第5巻で取り上げられているのは、体重わずか300g(!!!)という、極小の中でも極小のチワワです。

原種のチワワは体重5kg。300g/5kg(=5000g)、わずか3/50です。

想像してみてください。もしも、です。もしも宇宙人が、本来なら体重50kgくらいには育つべき地球の人類の女性を、体重3kg(30kgではない!)までしか育たたないように交配・飼育するとしたら、あなたはどう思いますか?「ちっちゃくて可愛くていいじゃん!私もそうしてほしかった!」と思いますか?それとも、「とんでもない虐待だ」と思いますか?

私は、「とんでもない虐待だ」と思います。人類という種族と生命そのものに対する凜辱、悪魔の所業だと思うでしょう。

でも、人間は、人類最高の友といわれる犬族にたいして、そういうことを繰り返しているのです。

「チワワは小さいほど人気で、今じゃ2kg以下が当たり前・・・
1.5kg以下の極小チワワなんて新基準まである。
原種のチワワが5kgってことも知らずに、大きいチワワを異常種だと思い込んでいる飼い主も多くてな。
こいつも体格を無視したダイエットで免疫力が落ちて病気をくりかえし、
医療費が払えず捨てられたのさ。」
「ひどい話だ、食べて栄養をとれば治るのに・・」
「健康より小ささ優先だったんだろ。(後略)」
page10-11

『しっぽの声』第5巻

『しっぽの声』第5巻

作品では書かれていませんが、体を異常に小さくした場合、健康面以外にも生物種として致命的な欠点が出てしまいます。出産に関する悲劇です。

体を小さくした場合、一番小さくなりにくい部位は頭です。頭蓋骨に守られた脳は簡単には縮小できません。しかもヒトは頭でっかちの幼児体型のほうが好き。その結果、ヒト好みに大きいままの頭が、ヒト好みに縮小された産道(体)を通らなくなってしまったのです。つまり帝王切開でしか産めない犬種が増えてきたということです。犬はかつては安産の象徴だったというのに。

それから、生き餌の問題。

「ハリネズミは可愛い動物。コオロギはおいしいエサ。
ペットは生体で、生き餌はフード?
同じ命なのに・・・!?」
page88-89

コオロギやミルワームなどはまだ「エサ」と見られる人でも、ピンクマウスはどうでしょうか?生れたてのハツカネズミの赤ちゃんのことです。爬虫類や、今流行りのフクロウなどの「最高級のご馳走」となるわけですが。

『しっぽの声』第5巻

『しっぽの声』第5巻

ペットとして愛されるべく「生産」されている犬猫でさえ、しばしば繁殖工場(パピーミル)化している世界です。これら「生き餌」となる動物達が、まともな命として扱われているワケありません。ギュウギュウ詰めの過密状態、なんとか生きている状態で繁殖されています。

そして、先ほどあげた、今流行りのフクロウにしても。

彼ら野生動物は人に飼われて、ときにはカフェで見世物にされたりもして、果たしてに幸せなんでしょうか?

「野生と同じ条件で飼えない動物を無理やり飼うっていのは、紙飛行機と同じさ。
飛んでるんじゃなくて、ゆっくり落ちてる。
飼ってるんじゃなくて、ゆっくり殺してるってことなんだよ。」
page146

ドキリとさせられる言葉です。でも、私も、その通りと思います。

『しっぽの声』第5巻

『しっぽの声』第5巻

第4巻までは、多頭飼育崩壊やパピーミル、ペットショップ業界の暗黒や動物虐待者など、どちらかというと普通ではない人たち、一般飼い主とは違う立場や精神の持ち主たちが多く扱われてきました。でもこの第5巻で取り上げられているのは、一般飼い主や、飼い主でさえないカフェの客など、誰にでも深くかかわる問題です。二頭身に近いような小型犬を見て、可愛いと思うか、異常だと思うか。うちの猫ちゃんに肉や魚を与えるとき、それらのフードも生きた命だったことを意識している人がどのくらいいるか。

見た目のかわいらしさだけで犬を選んだり、映画で見たからとフクロウカフェ等でキャッキャ喜ぶような人たちに、とくに見てほしい巻です。

『しっぽの声』第5巻

『しっぽの声』第5巻

まとめ:ちくやまきよし画『しっぽの声』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『しっぽの声』
第5巻

  • 作画:ちくやまきよし
  • 原作:夏緑(なつ みどり)
  • 協力:杉本彩(すぎもと あや)
  • 出版社:株式会社 小学館
  • 発行:2019年
  • 初出:「ビッグコミックオリジナル」2018年第21号~2019年第4号
  • NDC:726(マンガ、絵本)
  • ISBN:9784098604159
  • 196ページ
  • 登場ニャン物:多数
  • 登場動物:犬、ほか

 

目次(抜粋)

  • 第32話 300gのチワワ(上)
  • 第33話 300gのチワワ(下)
  • 第34話 おばあちゃんのわんこ
  • 第35話 エサになる命(上)
  • 第36話 エサになる命(下)
  • 第37話 とらわれの鉄鎖
  • 第38話 ブームの後(上)
  • 第39話 ブームの後(下)


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『しっぽの声』第5巻

9.7

猫度・動物度

9.9/10

面白さ

9.0/10

犬好きさんへお勧め度

9.9/10

猫好きさんへお勧め度

9.9/10

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