『しっぽの声』第6巻 作画:ちくやまきよし、原作:夏緑、協力:杉本彩
「サトウキビを守る人間がつれてきて、300年も利用して・・・」
鹿児島県の南洋はるか400km、奄美群島に属する黒兎島。この孤島にもサトウキビ栽培の技術が伝えられ、薩摩藩による厳しい管理のもと、黒糖地獄と呼ばれるほどの搾取がなされました。
そして現在。
ユネスコの世界自然遺産に、日本政府は、黒兎島を含む奄美群島、沖縄、西表島を申請しました。が、2018年5月、断られてしまいました。アマミノクロウサギほか珍しい生物たたくさんいるにもかかわらず。
そこで黒兎島では、『生態系保全のためのノネコ管理計画』が始まりました。
ノネコとは、どのような動物のことなのでしょうか。
「防鼠忌避剤が発明されて用なしになり、見捨てられた猫たちさ。」
page32
ではなぜノネコを『管理』する必要があるのでしょうか。
「骨董品とおなじさ。
モノは珍しくても保存状態が悪けりゃ価値が下がる。
(中略)
ところがここ300年の間に、人間が猫やマングースを放った。
(中略)
生態系は大打撃をこうむり、今も破壊されつづけてる。
保存状態の悪い、外来種に汚染された生態系を世界自然遺産とは認めねえ。
数年後、夕種が全部絶滅して、世界のどこにでもいる猫の森になっていたらヤバいだろ。」
page38-39
『管理』とはつまり、アマミノクロウサギ等の固有種を守るため、1000頭もいるノネコたちを全頭捕獲・処分しちゃえって話だったのです。そのために駆除専門の猟師まで雇用されたのでした。
「野良猫をノネコとよびかえれば動物愛護法から外れ、希少種を食い殺す有害鳥獣として駆除できるようになるんだよ。」
page27
小さな島には、ノネコ駆除賛成派・反対派が大勢集まっていました。全部、島外の人たちです。アマミノクロウサギなど貴重な固有種を守るためノネコを全滅させろという人から、全頭保護して終生飼育すべきという人、ノネコだってこの島の住民だいっさい手を出すなという人まで。島民そっちのけで、連日、喧々諤々(けんけんがくがく)のどんちゃん騒ぎ。
固有種の保護は重要です。ものすごく重要です。その一方で、猫達も殺したくない。どうすればすべての動物達の命を守れるか。
熱血漢・天草士狼(アニマルシェルター運営者)と、理想論者・獅子神太一(獣医師)の、奇想天外な大作戦が始まります。
* * *
「黒兎島」は架空の島です。天草たちの作戦も、架空のものです。この「黒兎島」は、すべて架空だからこそ最終的に成功したのだと言えるかも、現実はそう甘くはないぞ、とも思います。
でも。
架空だからって簡単に見過ごさないでほしい。アマミノクロウサギや、ヤンバルクイナ、それぞれの島で固有の進化をとべているトゲネズミたち、その他。アマミノクロウサギはウサギなのに耳が小さい「生きた化石」だし、トゲネズミは哺乳類なのになんと!雄にY染色体がない!?
(興味のある方は北海道大学公式ホームページ「トゲネズミ ~Y染色体がなくなってもだいじょうぶ。オスはしたたかに残り続ける~」等ご検索ください)。
つまり、生物学的に、それはもう貴重な固有種たちなんです。この子たちを、絶対に、ぜったいに、ゼッタイに絶滅させないよう、我々人類は頑張らなければなりません。「黒兎島」こそ架空の島ですけれど、奄美諸島や西表島や対馬列島や小笠原諸島等では本当にマンガに書かれたようなことがおこっています。人間のせいで、あるいは人間が持ち込んだ天敵のせいで、固有種たちが絶滅したり絶滅直前の状態に追い込まれたりしています。
ほかには、超大型犬を飼う難しさなどが取り上げられています。
どうかこの巻をよく読んで、検索もして調べて、動物達の状況を良く理解してあげてください。そしてできれば周囲の人たちにも教えてあげてください。動物たちを救うには、まず、人間が彼らのことをもっと良く知る事。すべてそこから始まるのだと思います。
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『しっぽの声』
第6巻
- 作画:ちくやまきよし
- 原作:夏緑(なつ みどり)
- 協力:杉本彩(すぎもと あや)
- 出版社:株式会社 小学館
- 発行:2020年
- 初出:「ビッグコミックオリジナル」2019年第5号~第10号、第12号、第13号
- NDC:726(マンガ、絵本)
- ISBN:9784098605576
- 196ページ
- 登場ニャン物:多数
- 登場動物:犬、アマミノクロウサギ、ほか
目次(抜粋)
- 第40話 ノネコ管理計画
- 第41話 ノネコとノラネコ
- 第42話 うさねこ合戦
- 第43話 レンジャー
- 第44話 突破口
- 第45話 大いなる遺産
- 第46話 愛犬の異変
- 第47話 たぶれ犬