『しっぽの声』第7巻 作画:ちくやまきよし、原作:夏緑、協力:杉本彩
「一億玉砕、畜犬・・・つまりペットも軍にさしだせ、とメディアがあおったんじゃ。」
第7巻でまず扱われているのは、無責任飼い主による大型犬の間違った飼育の問題。
「いくつもの山をこえて獲物を折っているうちに迷子になった猟犬とか、獲物に反撃されて狩りの役に立たなくなり、飼い主に足を撃たれて捨てられた猟犬・・・
昔からそういうのがいて、野犬化しとるんだよ。」
page12
思わずドキッとしてしまいます。というのも、今の私の愛犬ゴンも、おそらくは捨てられた猟犬、あるいはもっと可能性がたかいのが、バカ飼い主が猟犬に育てようとしたが訓練に失敗して虐待したあげく山に捨てた犬だと推測されるからです。猟犬だと推測するのは、ゴンの山での挙動からです。バカ飼い主が虐待したのではと推測するのは、特定の年齢層の男性を異様なまでに怖がるからです。野良犬時代に1回や2回打たれた程度の怯え方ではありません。ある程度の期間に渡ってくり返し虐められない限り、ここまでのPTSDにはならないだろうというレベルです。私がこの「第48~49話 幽霊が泣く森」につい身を乗り出してしまったのも当然でしょう。
しかも、この話で山を放浪していた犬は、アイリッシュ・ウルフハウンド。世界中の犬種の中でいちばん背が高い犬です。こんな大きな犬が人を野犬化して襲うようになってしまったら・・・考えただけで恐ろしいですよね。
つぎは、天草アニマルシェルターで動物達の世話をしている「鶴じい」の少年時代の話。
あの太平洋戦争の話です。物資不足の日本では、ペットの犬猫まで軍に供出させられました。
「食糧難で人間の食料も不足する中、むだ飯を食うペットは糾弾されたんじゃよ。」
「なんてひどい!
人間のおこした戦争なんて、
動物達には何も関係ないのに・・・!!」
「関係ないものも、みんな巻き込まれて死んでいく。
それが戦争なんじゃ。」
page62
まだ少年だった鶴じいの弟分ブチも供出される危険がありました。そんなとき、ある事件がおこりました。
・・・・・
そのほか、猫保護をSNSで騙って寄付金を集める女や、里親募集の難しさ、また都会の公園に生息する野生動物たちのことなどの作品が収容されています。プラスチックゴミがいかに動物達を苦しめることになるかという話題も。
どの作品を読んでも思うのは、動物問題の複雑さです。頭が痛くなるようなことばかりです。でも、それを少しでも良い方向へ持っていけるのもやはり人間しかいないだということも再認識させられます。
よいマンガです。こういうマンガは、全国の図書館、とくに小学校+中学校+高等学校の図書館に、ぜひ置いてもらいたいものです。児童やティーンエイジャーの柔らかい頭でしっかり考えてほしい問題です。
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『しっぽの声』
第7巻
- 作画:ちくやまきよし
- 原作:夏緑(なつ みどり)
- 協力:杉本彩(すぎもと あや)
- 出版社:株式会社 小学館
- 発行:2020年
- 初出:「ビッグコミックオリジナル」2019年第14号~第17号、第19号~第22号
- NDC:726(マンガ、絵本)
- ISBN:9784098606894
- 196ページ
- 登場ニャン物:多数
- 登場動物:犬、ほか
目次(抜粋)
- 第48話 幽霊が泣く森(上)
- 第49話 幽霊が泣く森(下)
- 第50話 鶴じいの昔話(上)
- 第51話 鶴じいの昔話(下)
- 第52話 支援ビジネス
- 第53話 バトンタッチ
- 第54話 水底からの警鐘(上)
- 第55話 水底からの警鐘(下)