『しっぽの声』第1巻 作画:ちくやまきよし、原作:夏緑、協力:杉本彩
「命を計算すること自体が間違ってるんだ!」
すばらしいマンガが登場しました。これこそ私が待っていたもの!
作画はちくやまきほし氏、原作は夏緑氏。『獣医ドリトル』全20巻で両氏の動物たちへの愛はすでに知られています。さらに杉本彩氏(公益財団法人動物環境・福祉協会Eva理事長)も協力しているとなれば、この作品『しっぽの声』がどんな内容か、何を語り何を伝えようとしているのか、見る前から想像がつくというもの。
そして作品は、想像以上でした!!
第一話は、アニマルホーダーの話です。二人の主人公の出会いの場でもありました。
獅子神太一(ししがみ たいち)は、レーベン動物病院の副院長で獣医師です。動物保護団体の女性と、ある家を訪問しようとしていました。多頭飼育崩壊の疑惑がある家でした。
が、住民が中へ入れてくれません。
あきらめて帰ろうとしたときに現れた謎の男は、天草士狼(あまくさ しろう)。いきなり問題の家に「不法侵入」してしまいます。ボランティアの女性は、天草を「動物保護シェルター詐欺師のウワサのある危険人物」と警戒します。
獅子神はフロリダ大学留学中にアメフト選手もしていたような体格の持ち主。力づくで天草を止めようとしますが、天草に一喝されます。
「このすさまじい死臭を嗅いでわからねえのか?それともわかってるから怖くて進めねえのか?」
「忠告してやるぜ、獣医のお坊ちゃん。
現実を知らないままでいたいなら、消毒された病院の中に座ってろ。」
(中略)
「おとぎ話みてぇな可愛いペットの甘い夢から覚めたくなけりゃ・・・
これから俺が行く場所には一生かかわるな!」
page56-57
この言葉、飼い主全員に言いたいですね。着飾った室内犬や、キャットタワーでくつろぐスコティッシュフォールドの写真をSNSにあげて「かわいい~」「癒される~」を連発するばかりが愛犬家・愛猫家ではありません。私にいわせれば、「かわいい」だけの人なんてただの”自称”愛犬家・愛猫家。本当に動物を愛している人たちは、かわいい写真をアップする一方で、動物達の問題にも敏感な反応をみせています。表も裏も知ってこそ、本当の愛情ではないでしょうか。
もちろん天草士狼は、詐欺師ではありませんでした。それどころか、日本ではめったに見られないほどに理想的なアニマルシェルターを運営している男でした。
しかしその「天草アニマルシェルター」は、見学者お断り、場所も公表していません。なぜなら動物を捨てに来られては大変だから。どれほど広い敷地があろうと、設備がととのっていようと、無制限に動物を受け入れるなんて不可能です。そんなことをしたら多頭飼育崩壊してしまいます。多頭飼育崩壊の恐ろしさは、天草自身が誰よりもよく知っています。
第1巻では、多頭飼育崩壊のほか、人に慣れない保護犬や、狂犬病の話、犬猫達を殺処分しなければならない職員の苦悩などについて書かれています。
「(猫は)そもそも不妊・去勢手術をして室内で飼ってりゃ増えねえんだよ。
それが動物愛護の基本だってのに、手術したり閉じ込めるのはかわいそうとか言う奴もいる・・・」
(中略)
「一頭の猫への無責任なあわれみは・・・
時限爆弾になって何十頭もの仔猫の命を消し飛ばしちまう。」
(中略)
「本当に命のスイッチを押していたのは・・・!!」
「地獄への道は、無責任な善意で舗装されている。
・・・よくあることさ。」
page167-168
どうかどうか、愛猫は避妊・去勢手術をして、室内だけで飼育してあげてください。庭にも出してあげたいときは、敷地内から決して脱走できないよう、金網等で厳重に囲ってから(天井部分も)出すようにしてください。
お願いします。
動物を幸せにするのも、不幸にするのも人間です。
「あとがき」より
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『しっぽの声』
第1巻
- 作画:ちくやまきよし
- 原作:夏緑(なつ みどり)
- 協力:杉本彩(すぎもと あや)
- 出版社:株式会社 小学館
- 発行:2018年
- 初出:「ビッグコミックオリジナル」2017年第12号~第18号
- NDC:726(マンガ、絵本)
- ISBN:9784091897039
- 194ページ
- 登場ニャン物:多数
- 登場動物:犬、ほか
目次(抜粋)
- 第1話 声を聞かせて
- 第2話 ホーダー
- 第3話 アニマルシェルター
- 第4話 心の重い扉
- 第5話 無力
- 第6話 スイッチを押す者
- 第7話 新しい出会い