出久根達郎『まかふしぎ・猫の犬』

出久根達郎『まかふしぎ・猫の犬』

古書店主で作家。気楽に読めるエッセイ集。

出久根氏の本なので躊躇なく買いました。この方のものは、私にとってとても馴染みやすい文章で、懐かしいほど?なぜだろう?文章のリズム、言葉の選び方、ユーモアの利かせ方←これ、とても大事です。笑いのボが違うと、楽しくないんですよね。私は関東育ちですが、今関西に住んでいます。関西人のギャグ等と、関東(それも江戸っ子といわれるような昔ながらの)のそれとは、微妙に、しかしハッキリ違うんですね。私には正直、しばしば全然オモシロクナイ。彼らにとっても私のジョークは面白くないらしい(多分彼らの感覚からはかなりズレている?)。イギリス人のウィットしかり、フランス人のエスプリしかり、アメリカ人のアメリカンジョークしかり、どれも似て非なり。

でも出久根氏とは合うんです。本が好き、古書も好き、夏目漱石が好き、そして猫が好き。と、興味の対象にも共通点が多いからでしょうか。

で、ついタイトルを見ただけで、「また猫の本だぁ♪」と勘違いして買ってしまいました。残念ながら、猫の話はわずか数ページ。他は全部、別話題のエッセイ集でした。でも面白かったからかまいません。

どれもごく短いエッセイばかりです。初出の掲載も、新聞だったり雑誌だったりと様々。とりとめもない日常会話みたいでありながら、全体としては出久根色でまとまっている?

表題の「猫の犬」はわずか3ページのエッセイ。他愛もない話です。ほかに猫がでてくる箇所はほとんどなく、イワシの頭を猫がさらったとか、以前「猫の似顔絵」についての本を書いたことがあるとか(⇒『猫の似づら絵師』)、知人の迷子猫捜索のポスター作りを手伝ったとか、そんなことがチラっと書いてある程度。

そんな中、なるほどと思った話。猫ではなく、食べ物の話。

ある時、出久根氏は田舎の知人から、思いがけないギフトを送られます。中に入っていたのは、長さ1メートル以上もある山の芋5本。それも、栽培ではなく天然もの。

出久根氏は仰天します。これがどれほどの逸品であるか、氏はよく御存知だから。

1メートル以上、ということですから、長芋だとおもいますが、長芋を畑で栽培する場合、まず細長い筒を土に埋めます。真っすぐ下にではなく、掘出しやすいよう斜めに。そこに長芋の苗を植え付けるのです。収穫は、斜めの筒を掘出すだけですから簡単です。

しかし天然物のばあい、まず山にはいって見つけなければなりません。うまく見つかっても、掘出すのが実に大変です。柔らかい畑の土と違って、掘りにくい山の土を、まっすぐ下に、1メートル以上も掘らなければならない、しかも芋は傷つきやすく、どこでどんな方向にまがっているかもわからない。天然物は、短いタケノコだって掘出すのは苦労するんです。まして1メートル以上の山の芋を折らずに掘出すとなれば、大袈裟でなく1本1日がかりとなります。

出久根氏は、東京生れのカミさんに、その苦労を説明します。

カミさんが言う。
「掘る苦労を知らない人には、ありがたみがわかりませんね」
「そう。人は物だけ見て、出来上がるまでの時間を考えないからね」

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で、私はこの言葉に、すごく納得したんです。なぜ自分で育てた野菜があんなに美味しいか。曲がっていても、傷だらけでも、本当に美味しいのです。そうか、美味しいのは、出来上がるまでの時間を知っているからか!買ってきたトマトが水っぽくて味が感じられないのも、買ってきた惣菜や弁当が調味料の味しかしないのも、どれだけの時間(と苦労)をかけて作られたものかわからないからか!

およそ人の舌なんて、いいかげんなものです。味を決めるのは、空腹度以外には、その場の雰囲気や気分や金額。下手すると「金額」が一番影響力大かもしれません。金額を知らずに飲めば、超高級ワインも庶民派ワインも区別がつく人は少ない、それは某テレビ番組でも証明されていることです。その金額もあまりに高額になると、そもそも味もわからなくなるようですけど。

気楽に読める本です。各章が短いので、ちょっとした待ち時間などにも適切。おすすめ。

出久根達郎『まかふしぎ・猫の犬』

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

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著者について

出久根達郎(でくね たつろう)

作家・古書店主。1992年『本のお口よごしですが』で講談社エッセイ賞を、翌年『佃島ふたり書房』で直木賞を受賞。他に『古本奇譚』『世直し大明神』『古本夜話』『御書物同心日記(正続)』『おんな飛脚人』『安政大変』『古本・貸本・気になる本』『行蔵は我にあり』他多数。 (著者プロフィールは本著からの抜粋です。)

『まかふしぎ・猫の犬』

  • 著:出久根達郎(でくね たつろう)
  • 出版社:株式会社 河出書房新社
  • 発行:2005年
  • 初出:2001年~2003年 各社雑誌・新聞
  • NDC:914.6(日本文学)随筆、エッセイ
  • ISBN:9784309016962
  • 207ページ
  • 登場ニャン物:ペルシャ猫
  • 登場動物:犬
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