出久根達郎『猫の似づら絵師』
猫の似顔絵専門の絵師の話。
江戸時代。
無一文になった二人の男がいた。
男達は、毎日饂飩(うどん)をこねている不思議な老人に拾われ、新しい仕事を始めた。
銀太郎は、猫の似づら絵師。
要するに、猫の似顔絵師だ。
「猫の似づら絵描きましょう」といいながら、町を流す。
人間を描いても、ネズミを描いても、顔が皆猫になってしまうという男なので、猫の似顔絵を描いて生計を立てるしかないのだ。
そして、丹三郎は「貧乏神売り」。
貧乏神の絵を使った縁起担ぎの商売である。
この銀太郎と、丹三郎と、不思議な老人が、江戸の町でであう面白い事件の数々をつづったものが、この本である。
軽妙な文体、小気味よいテンポ、戯作文学の雰囲気を残して読みやすい。
やくざの親分をやっつけたり、殺人犯を捕まえたり、哀れな女を救い出したり、なかなかの活躍ぶりである。
いかにものんきで気楽だ。長屋の貧乏暮らしだけれど、現代人より余程余裕のある生活に見える。
全編「猫」に囲まれているといって良いくらい、「猫」という言葉は多く出てくる。
が、本物の猫はほとんど活躍しない。
とはいえ、会話は猫だらけだし、事件も猫だらけだし、ついでに言えば出久根氏は他にも猫の本をいくつも書かれたお人だ。
読んでいる内に、きっと猫に囲まれた気分になれるだろう。
⇒『猫にマタタビの旅』に続く。
(2003.2.4)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『猫の似づら絵師』
- 著:出久根達郎(でくね たつろう)
- 出版社:文藝春秋
- 発行:1998年
- NDC:913.6(日本文学)小説
- ISBN:4163179402 9784163179407
- 264ページ
- 登場ニャン物:さつき
- 登場動物:-
目次(抜粋)
- 猫に鰹節問屋
- 猫にマタタビ初春に竹
- 招き猫だが福にあらず
- 窮鼠猫を好む
- 闇夜に鴉猫
- 虎の威を借る猫
- 変わった職業――あとがきにかえて