藤田紘一郎『寄生虫博士のおさらい生物学』

生き物とはなにか、生物学をあらためて考える。
藤田先生の本は、その内容の濃さと裏腹に、気軽にすらっと読めるものが多いのだが、この本はちょっと例外かもしれない。
題名通り、生物学の本なのだが、普通に本というより、高校生用(あるいは大学一般教養用)生物学の教科書、といったほうが、内容的に合っているだろう。ただし教科書につきものの絵や図、表などはは皆無。
おさらい、とタイトルにはあるけれど、私にとっては「学生時代のおさらい」ではなかった。
生物学の進歩は早い。
私が学生時代にならった生物学なんて、もはや「過去の産物」。
私は動物好きだから、卒業後もずっと生物学関係の本や雑誌を読み続けているので特に目新しい内容はなかったものの、もし私と同年配だが生物学とは無縁に暮らしてきた人が読んだらまったく理解できないのではないだろうか。
そういう意味で、この本は誰でも簡単にさらっと読める内容ではないと思うのである。
しかし、人間は生物である。
ヒトが生物であること。
ヒトのすべての行動、というか、ヒトの存在自体が、ヒトが生物であることから発しているのだが、この基本中の基本を、なぜか現代人はしばしば忘れる。
その事実を、こういう本を読むことでガツンと思い出す必要があるかもしれない。
そもそも、「生物っていったい何だろうか」。
藤田先生は、「生物であること」の特徴をつぎの3つにまとめている。
「一つ目は、外からの刺激に対して反応すること。
二つ目、たえず体外からの物質とエネルギーをとり入れ、体内で同化と異化の過程を通じてエネルギーをとり出す能力をもっていること。
三つ目、自分と同型の子孫を作り出す能力をもっていること。
つまり、刺激反応性、代謝能力、自己増殖性の三つの能力をもっているものが生物といえるだろう。」
また、ヒトは、ヒトだけでは決して存続し得ない。
「動物を含めた生物界すべてのエネルギーの出発点は、植物が光合成によってとり入れる太陽の光エネルギーなのである。」
この本は、読んで笑えるような楽しい本ではないかも知れない。
しかし、この本を読むことで生物とは何かということをあらためて問い直し、地球上で人類がどうあるべきかを深く思索してほしい。
(2006.12.26.)

藤田紘一郎『寄生虫博士のおさらい生物学』

藤田紘一郎『寄生虫博士のおさらい生物学』
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『寄生虫博士のおさらい生物学』
- 著:藤田紘一郎 (ふじた こういちろう)
- 出版社:講談社
- 発行:2005年
- NDC:460(生物化学・一般生物学)
- ISBN:4062128357 9784062128353
- 318ページ
- モノクロイラスト(カット)
- 登場ニャン物:-
- 登場動物:-
目次(抜粋)
- はじめに
- 第一部 「生きもの」とは何だ
- 一時限目●いろいろな生物とその誕生
- 二時限目●ミトコンドリアと生命の進化
- 三時限目●すべての物質は葉緑体が作った
- 第二部「生きている」とは何だ
- 四時限目●生殖することが生きること
- 五時限目●遺伝子の本体DNAとゲノム
- 六時限目●遺伝子工学から生命革命へ
- 第三部「立派でない生きもの」とは何だ
- 七時限目●バクテリア、ウイルス、プリオン
- 第四部「生きている反応」とは何だ
- 八時限目●免疫系の見事な仕組み
- 九時限目●生まれてから死ぬまで「免疫」
- おわりに
- 主な参考文献
- さくいん