本川達雄『ゾウの時間 ネズミの時間』
副題:「サイズの生物学」。
有名な本だから、お読みになった方も多いかと思う。
時間が絶対的な物ではなく、相対的なものだと言うことは、アインシュタインだの相対性理論だのと論じるまでもなく、我々が日々実感していることではある。寒風吹きすさぶ赤信号の1分はとてつもなく長いが、夢中でゲームしていれば1時間なんてあっという間。小学生の頃は、おやつから夕食までが長くて飢え死にしそうだったのに、大人の今、「今おやつ出したばかりなのにもう夕食の催促か(怒)」、なんてお母さんは多いだろう。
同じ人間でも、これだけ時間の感覚が異なるのである。ましてサイズの違う生物では!
この本によれば。
時間は体重の1/4乗に比例するそうだ。
体重が多い動物は、時間が長く(速度が遅く)なる。ハツカネズミはちょこまかと動くが、ゾウはゆったりと歩く。この法則は寿命だけでなく、大人に成長するまでの時間や、性的に成熟するまでの時間、さらに、息をする時間感覚、心臓が打つ間隔、地が体内を一巡する間隔などなど、いろいろな現象に非常にひろく当てはまるのだそうだ。
不思議はそれだけでない。
哺乳類の寿命を、心臓の鼓動時間で割ってみると、どの動物であっても、一生の間に心臓は20億回打つという計算になるそうだ。で、一生の間に呼吸する回数は5億回。
これはすごい事ではないか?人間はつい、人間の、それも「その人特有の」時間で、世界のすべてを測ってしまうが、世の中そんなに簡単には回っていなかったのである。
本では、さらに興味深い事実が色々と述べられていく。呼吸系や循環系を持っていない動物の限界サイズとか、循環系はあるが呼吸系を持たない円柱型動物の限界サイズとか、動きが極端に遅い肉食動物の限界サイズとか。
生物にとって、サイズがこれほど重要な意味を持っているとは!
サイズによってこれほどの違いがあるとは!
あるいは、これほど違って見えるのにサイズを考慮に入れれば実は同じだったとは!
とにかく、面白い本です。数字や数式が多いけど、そんなものは飛ばして読めば良い。数学の授業じゃあるまいし、数式をいちいち理解する必要はないと思う(もちろん、理解できればもっと面白いだろうけれど)。今回でこの本はたしか3回目だが(細かい内容はすぐ忘れちゃうもので(^^;))、何回読んでも面白い。読む度に、あたらしい気づきがある。さすがベストセラーになった名著だ。
(2010.02.12.)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『ゾウの時間 ネズミの時間』
サイズの生物学
- 著:本川達雄(もとかわ たつお)
- 出版社:中央公論社 中公新書
- 発行:1992年
- NDC:480(動物学)
- ISBN:9784121010872
- 230ページ
- 登場ニャン物:-
- 登場動物:各種
目次(抜粋)
第1章 動物のサイズと時間
第2章 サイズと進化
第3章 サイズとエネルギー消費量
第4章 食事量・生息密度・行動圏
第5章 走る・飛ぶ・泳ぐ
第6章 なぜ車輪動物がいないのか
第7章 小さな泳ぎ手
第8章 呼吸系や循環系はなぜ必要か
第9章 器官のサイズ
第10章 時間と空間
第11章 細胞のサイズと生物の建築法
第12章 昆虫―小サイズの達人
第13章 動かない動物たち
第14章 棘皮動物―ちょっとだけ動く動物