兵頭哲夫、他『動物病院119番』

兵頭哲夫、他『動物病院119番』

 

動物病院の先生からの、切実な訴え。

ペットを飼う前に必要な条件は何でしょうか?

これはよくある質問ですし、答えもだいたい同じですよね。
最後までちゃんと世話をすることとか、家族全員が賛成していることとか、ペット可住宅だとか、家族に動物アレルギーがいないこと、など。

でもこの本は、ペットを飼う上で「最低限の」必要項目5つのうち、3つめに

「不測の事態が発生したときに信頼できる里親が身近にいますか?」

という項目をあげています。

これはちょっと珍しいのではないかと思います。
里親条件に言及している本はありますが、それが三番目にくるというのは、あまり見ないでしょう。

この本は、獣医師の視点から書かれてはいますが、動物の病気についての本ではありません。
一般的なペット論や、飼育ノウハウなどが書かれた本です。
それもただの飼育ノウハウではない。
どうすればペットを不幸にしないで済むか、不幸なペットを減らすためにいはどうしたらよいのか、常にこの二点を念頭に置いた上で書かれたものと思われます。

だからこそ、冒頭のように、「里親の確保」が飼育前の最低条件として指摘されたりもするのです。
そして、そのような動物愛護の視点はあちこちに現れます。

たとえば、ペットの選び方。

どのペットの本にも書いてある通り、元気な個体を選んでください。
(p.46)

ただし、それは、元気な子の方が飼いやすいからではなく、「(元気でない個体を売るような)ルール違反のペットショップから高いお金を支払って元気でない生体を引き受けてしまったら、そのお店に利益をあたえてしま」うから良くないことなのだ、と書いています。
あきらかに元気でないペットを売っていたら、買ってあげることで救うのではなく、動物福祉協会(http://www.jaws.or.jp)に相談しろ、と説きます。

それから「残り物には福がある」可愛い盛りの幼ペットだけでなく、ちょっと大きめの「売れ残りの子」にも目を向けてみてください、とも。

また、動物たちの幸せを考えるからこそ、愛するペットの死についてもしっかり書かれています。

動物の死亡率は100パーセントです。必ず死ぬからこそ、生きている今が貴重なのです。
(p.183)

私は昔から、「死ぬと可哀想だから動物は飼わない」という人を、信用できません。
そういう言い方をする人って、優しい人を気取る偽善者って気がしてなりません。

著者も、そういう、「動物は死ぬから飼いたくない」「死んだあの子がかわいそうだからもう二度と新しいペットは飼いたくない」という人たちに、理解は示しながらも、勿体ない、どうか飼ってほしいと書いています。私の気持ちがまさに代弁されていると思われた箇所です。

それから、以下の文も、私の思いと一緒です。

・・・それを見て、私は動物にとって死はそれほど忌まわしいものでも呪わしく嫌なものでもないな、と確信するに至りました。(中略)ある時点からきっぱり生に執着しない姿は立派です。
ですから、動物にとって死は恐るべきものではなくて、むしろ、直接自分を苦しめている痛みや肉体的不快感の方が辛いのだと思います。抽象的概念の「死」ではなく、動けない辛さ、食べられないという「現実」が苦痛なのです。
(p.185)

今、うちにいる7ニャンのうち、5ニャンが13歳と高齢。
中でもちびまる太は肝臓と腎臓が悪く、トロは慢性膵炎と診断されました。
めっきり痩せてきました。
寝てばかりになりました。

この子たちと1日でも長く一緒にいたい気持ちは非常に強いのです。
この子たちが治るのであれば、私自身は食費が足らなくて粥をすするような生活になっても全然かまわないから、少しでも長く一緒にいたいのです。

ですが、単なる延命の為だけの治療は止そうと決めています。
苦痛を取り除くための治療、QOLを上げるための治療はしますが、延命治療はしません。
多分、この子たちが望んでいないと思われるから。・・・

最後に、また引用。

私は約四十年間、動物病院を経営して獣医師として仕事をしてきましたが、はっきりと断言できるのは、「ペットが悪い」という事態はいまだかつて一件もないということです。
(中略)咬んだ犬には犬なりの正当な理由があって咬む。私の体験では、すべて飼い主かブリーダーもしくは獣医師など、そのペットを取り巻く「人間が悪い」のです。ペットは悪くない。いつだって人間が悪いのです。ですから何か問題が発生したときも、ペットのせいには絶対にしないでください。
(p.21)

(2013.1.19)

兵頭哲夫、他『動物病院119番』

兵頭哲夫、他『動物病院119番』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『動物病院119番』

  • 著:兵頭哲夫(ひょうどう てつお)、柿川鮎子(かきかわ あゆこ)
  • 出版社:文芸春秋社 文芸新書
  • 発行:2005年
  • NDC:645.6(家畜各論・犬、猫)
  • ISBN:9784166604418
  • 213ページ
  • 登場ニャン物:多数
  • 登場動物:犬

 

目次(抜粋)

まえがき

第1章 ペットと暮らす最高の幸せ――あながた飼いたいと思ったときに
Ⅰ ペットから学ぶ生き方
Ⅱ 飼い主が最後まで責任をもつ
Ⅲ かけがえのないペットを探す方法
Ⅳ 動物を飼うコスト
Ⅴ ペットフードについての考え方
Ⅵ 獣医師が薦める、あるとよい製品
Ⅶ 情報の洪水から身を守るには

第2章 病院の秘密、教えます――動物病院徹底活用術
Ⅰ「医は算術」のウソ、ホント
Ⅱ 獣医師から見た「良い飼い主」「悪い飼い主」
Ⅲ 悲しい「死亡報告」もお忘れなく
Ⅳ 薬の効果
Ⅴ 良い動物病院はここが違う
Ⅵ 動物病院チェックリスト10項目
Ⅶ 病院での診察が必要か?

第3章 ペットを取り巻く現状と課題――動物との幸せな暮らしを実現するには
Ⅰ 日本のペット産業四〇年史
Ⅱ 知っておきたいペットの法律
Ⅲ なぜ「しつけ」が必要なのか
Ⅳ 当世野良猫事情
Ⅴ 現代医療最前線

第4章 幸せな思い出を永遠に――死の環境変化
Ⅰ 飼い主として「最期」を考える
Ⅱ ペットロスは怖くない
Ⅲ 正々堂々と「安楽死」と向き合う
Ⅳ 生前に準備する死
Ⅴ 葬儀と墓の問題
Ⅵ 動物との生活を、ふたたび!

あとがき

 

著者について

兵頭哲夫(ひょうどう てつお)

静岡県生まれ。麻生大学獣医学科卒業。1963年、横浜市に兵頭動物病院を開設。以後、院長を務める。日本動物福祉協会理事。TBSラジオ「全国こども電話相談室」の回答者も務める。

柿川鮎子(かきかわ あゆこ)

神奈川県生まれ。明治大学政治経済学部卒業。日刊工業新聞記者を経て、フリーに。愛玩動物飼養管理士でもある。著書に『極楽「お不妊」物語』『犬にまたたび猫に骨』『負け犬以下のささやかな楽しみ』。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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