キング『ペット・セマタリー』
そのペット墓地に埋葬すると、何かがおこる・・・!。
2010年5月13日、私の最愛の猫、レオの魂が肉体から解き放たれた。
そのとき、スティーブン・キングの『ペット・セメタリー』を思い出した。
追い打ちを掛けるように、掲示板でも『ペット・セメタリー』の言及があった。
たまらず、古い本を引っ張り出して再読した。
私が所持しているのは、もう20年ほど前に古本屋で安く仕入れた英文ペーパーバックだから、質の悪い紙はますます焼けて変色し、折れやシミがあちこちにある。
それが今やかえってホラー小説に似合った装丁となっている。
(もちろん、和訳も出版されています)。
* * *
医者の一家が、シカゴから遠いメイン州の田舎町に家を買って引っ越した。
大学の校医としての、新しい生活を始めるために。
一家の構成は、夫で医者のルイスと、妻のレイチョル、娘のエリー、息子でまだ赤ちゃんのゲイジ、それから、エリーの愛猫チャーチ(ウィンストン・チャーチル)。
豊かな自然に囲まれた広い敷地は理想的なマイホームと見えた。
お向かいの老夫婦もとてもよくしてくれた。
エリーはたちまち新しい学校に馴れ、ゲイジは初めての言葉を発し始めた。
順風満帆に見えた新生活は、しかし、いきなり、ある学生の死という不吉な出来事に見舞われる。
不注意な学生が車にはねられて死ぬ。
それだけなら医者のルイスにとって、気持ちよくはないにせよ、震え上がるほどの出来事ではないはずだった。
しかしこの学生は違った。
死に際にはっきりとルイスの名を呼んだ。
赴任したばかりのルイスの名を学生が知るわけ無いのに。
さらに不穏で不可解なことも言った。
ルイスは悪夢にうなされる。
悪夢?
否、半分は本当の出来事。
ルイスの家の横から延びている、細い山道。
地域の子どもたちが手入れしているとかで、こんな山道にしては不自然なほど綺麗に整えられている。
そしてその終点には「ペット・セメタリー(ペット墓地)」があった。
子どもたちの手作りの墓碑が並んでいた。
ルイスはしかし、そこが本当の「終点」ではないことを知る。
さらに奥に、恐ろしい霊場があった。インディアン達の秘密の土地があった。
*****
(以下、ネタバレ含みます。)
*****
ある夕方、猫のチャーチが事故死する。
幸いエリーはその時留守だったが、・・・エリーの最愛の猫、エリーがどれほど悲しむだろう!
妻レイチョルも‘死’に関しては異様なほど怖がる。
妻の妹ゼルダが非業の死を遂げていて、レイチョルはそのトラウマから抜け出せずにいたのだ。
ルイスと老隣人は、夜中にチャーチを秘密の霊場に運んで埋める。
翌日、チャーチは生き返って戻ってきた。
屍臭を漂わせ、動作はぎこちなく、性格も変わっていたが、チャーチであることに変わりはなかった。
秘密の墓地には死者を生き返らせる力があったのだ。
そして、さらに、運命をねじ曲げる力も・・・
典型的なホラー小説だけど、2回目ということもあって、あまり怖さは感じなかった。
ただ「いやぁな感じ」、後味の悪さだけが残った。
なぜ西洋人は「死」をこれほど忌み嫌うのだろう、なぜ死んだら必ず悪くならなきゃならないんだろうとそれも不思議だ。
そして、毎度のことながら、キングの小説は長すぎる(汗)。
せめてこの半分、できれば四分の一に凝縮しちゃえば、かえってゾワッと恐怖が残るだろうに。
良い例がポーの『黒猫』、あんなに短くて、あの恐怖感はどうだ。
この本で私が一番エモーショナル(感情的)になったのは、しかし、次の一文だった。
He wanted to get away from the cat, that weird cat which had no business being there at all.
(彼はこの猫から逃げたかった、いまいましい猫め、そこにいなきゃならない理由なんて何一つないのに。)
読んだとたんに私は声に出して叫んでいた。
But MY cat has every business in the world to be here, with me, by my side!!!
(でも私のレオはここにいなきゃならないのに!私と一緒に、私の側らに!)
要らない猫が生き返って、私のレオが生き返らないなんて許せない・・・!
レオが戻ってくるなら、私は躊躇わずにペット・セメタリーに埋める。
真夜中だろうと嵐だろうと埋めにいく。
屍臭なんてかまわない。
性格が変わってもかまわない。
私を嫌いになってしまってもかまわない。
レオさえ戻ってくれるなら、私は埋めに行くのに!
レオの遺骨を枕元に置いて2ヶ月以上になる。
朝起きたとき、夜寝るとき、骨壺を撫でて「おはよう」「お休み」という。
他にも猫達はいるのに、さらに新しい子猫も加わったのに、今でも・・・
レオがいない
まだその事実に慣れない。
猫の骨と毎晩寝る女こそ、西洋人にはホラーだろうか。
(2010.7.24.)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『ペット・セマタリー』
上・下
- 著:スティーヴン キング Stephen King
- 訳:深町 眞理子
- 出版社:文藝春秋 文春文庫
- 発行:1989年
- NDC:933(英文学)小説 アメリカ
- ISBN:(上巻)416714803X 9784167148034 ;(下巻)4167148048 9784167148041
- 原書:”Pet Sematary” c1983
- 登場ニャン物:チャーチ(ウィンストン・チャーチル Winston Churchill)
- 登場動物:犬
*映画化されDVDも発売されています。
ペット・セメタリー [DVD]
出演: ディル・ミッドキフ, フレッド・グウィン、他
監督: メアリー・ランバート
販売元: Paramount Home Entertainment(Japan)Limited(CIC)(D)
DVD発売日: 2007/08/24
時間: 103 分