ヒロコ・ムトー『猫の遺言状』

ヒロコ・ムトー『猫の遺言状』

 

猫が大嫌いな方に読んでいただきたい本。

著者は、猫が嫌いでした。単なる嫌いって程度じゃない、どのくらい嫌いかと言いますと

大嫌いだった。
理不尽な程に嫌いだった。
嫌いを通り越して恐ろしかった。
もの心付き始めたころから四十歳を越えるまで、ずぅーっとずぅーっと筋金入りの猫嫌いだった。
page206

と、ご自分で書いていらっしゃるくらいですから、半端な猫嫌いではありません。

それほどに猫が嫌いだったにもかかわらず、病弱な次女に夢を持たせたくて、つい約束をしてしまい、仕方なく、猫と暮らすようになりました。
チンチラシルバーの五右衛門ちゃんです。

そして著者は、五右衛門にたちまち「魂を奪われて」しまいます(笑)。

それでも、まだ、他の猫は怖いのでした。
著者の近所には、猫がたくさんいます。
飼い猫も、ノラ猫もいます。

ゴールドと呼ばれた野良猫は、皆の嫌われ者でした。猫を飼っているような猫好きの家でさえ、ゴールドだけは憎んでいました。
黒豹のような真っ黒な体に、燃えたつような黄金の目。
人を憎み、飼い猫を憎み、喧嘩っ早く、気が強いの何の。
ゴールドが現れると、飼い猫たちは室内に逃げ込みます。

そんなゴールドが我が家と選んだのが、なんと、猫嫌いの著者の家でした。

それにしても、今でも私にはわからない。
五右衛門によって猫に慣れてきたとはいえ、傍に寄って声をかけたこともなければ、餌を与えたこともない、なんら親しみを示したこともない、ゴールドを見れば魔物でも見るように顔を歪め震え上がっていた私を、なぜゴールドが選んだのか。
なぜ、私を選んで我が家にやって来たのか。
なぜ、私なら彼女を受け入れるとわかっていたのか。
私ですら、自分自身がやったことを未だに信じられないというのに。
page14-15

うふふ、でも猫好きのあなたならわかりますよね?
なぜゴールドが著者を選んだか。

だって、猫って、そういう生き物だからです。

猫は、本人でさえ気づいていないようなその人の本質を、難なく見抜いてしまいます。
ましてゴールドほどの猫であれば、著者の本質なんて、手に取るように見えちゃったのでしょう。
この人の「猫嫌い」は「猫好き」の裏返し、ほんのちょいと爪先でひっくり返すだけで、あっというまに猫好きに変身する!それも、猛烈で熱烈な猫好きに!

ゴールドは、痩せた体で、痩せこけた子猫たちを連れて(ゴールドは雌だったのです!あんなに凶暴だったのに)、著者の前に前脚をきちんと揃えてすわり、家の中の著者をひたと見つめます。
その瞬間、

熱いかたまりが胸のあたりから一揆に鼻の奥まで突き上げてきた。
私の中で、まだ少し残っていたゴールドへの偏見と嫌悪感が砕け散った。
page21

著者の完敗。それとも、偉大なる目覚めというべきでしょうか?
猫愛が爆発します。自他ともに認める「猫キチガイ」となります。

著者は、家の周りに現れる猫たちを、次々と迎え入れることになります。
家の中にいれて、完全室内飼いとする猫たちがいる一方で、野良猫たちやその子供たちは、そのまま外で面倒を見ます。
著者に守られていても、外猫の暮らしは決して安逸とはいえません。
怪我、病気、喧嘩、死。
行方不明になればオロオロ探し回り、猫風邪をひけば薬を砕いて餌にまぜ、猫たちにすっかり翻弄されながらも、作家としての鋭い観察眼で、猫たちを愛し続けます。

文句なし、猫エッセイの最高傑作のひとつだと思います。
ぜひお読みください。

ヒロコ・ムトー『猫の遺言状』

ゴールドと五右衛門。

ヒロコ・ムトー『猫の遺言状』

ヒロコ・ムトー『猫の遺言状』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『猫の遺言状』

  • 著:ヒロコ・ムトー
  • 出版社:文藝春秋
  • 発行:1998年
  • NDC:914.6(日本文学)随筆、エッセイ
  • ISBN:9784163538501
  • 208ページ
  • モノクロ
  • 登場ニャン物:ゴールド、クロコ、シマ太郎、シマ夫、ネロ、五右衛門、まどか、バンバン、ボンボン、ベンベン、他
  • 登場動物:-

 

目次(抜粋)

1 ゴールドの遺言状
2 涙目のネロ
3 悪ネロ
4 たらしのまどか
5 ゴールド一家の崩壊
6 寄合家族の絆
7 『家族の証明』
8 クロコの死
あとがき

 

著者について

ヒロコ・ムトー

TBSテレビ制作部に勤務、1969年いずみた氏主宰のオール・スタッフプロダクションに作詞家としてしょぞくし、古賀賞入賞局など多数作詞。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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ヒロコ・ムトー『猫の遺言状』

9.8

猫度

9.8/10

面白さ

9.8/10

猫好きさんへお勧め度

9.9/10

ヒロコ・ムトー『猫の遺言状』” に対して1件のコメントがあります。

  1. nekohon より:

    【推薦:リボン様】

    ゴールドという悪魔の化身のような野良猫が、作者に少しずつ心を開いていき、クロコ、シマ夫、シマ太郎という3匹の子を産んで外猫として飼われ、素晴らしい母親ぶりで子育てしていきます。狡猾さと凶暴さゆえ、近所の人たちから忌み嫌われた野良猫ゴールドでしたが、作者にとっては忘れることの出来ない猫になっていくのです。

    ゴールドが亡くなり、甘ったれだった娘のクロコがゴールドの意志を継いで、傷だらけになりながらも健気に1人前の猫になっていく姿は胸を打ちました。

    クロコの死は、本当に悲しかったですね。

    野良猫を嫌わないで…野良猫に罪はないのだから…。そんなメッセージを送っている本でした。
    (2004.5.4)

    *サイトリニューアル前にいただいておりましたコメントを、管理人が再投稿させていただきました。

  2. nekohon より:

    【推薦:ラム様】

    猫嫌いだった著者が、ゴールドと言う猫との出会いによって、大の猫好きになっていく話です。

    実は、私も子供の頃猫が怖いと思っていた時が有り、読んでいて著者の気持ちが凄く手に取るようにわかり、感動しました。

    多分、猫好きでない人が読んでも、猫好きになるかも知れない本だと思います。
    (2003.12.15)

    *サイトリニューアル前にいただいておりましたコメントを、管理人が再投稿させていただきました。

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