森村誠一『猫の自殺』

森村誠一『猫の自殺』

 

「非道人別帳五 紅毛天狗」収録。

「非道人別帳シリーズ」は第8巻まで出版されているようだが、この「猫の自殺」は第五巻に収容されている短編のひとつ。

頃は江戸時代。

ひとりの日雇い人足が突然死んだ。毒を食べたらしい。毒を盛った犯人がわからない。そもそもこんな日雇い人足を殺して得をする人間がいるとも思えない。

別の場所で、野良犬が死んだ。これも毒を喰ったらしい。

人足と野良犬と、関連はあるのか?

生きた猫は出てこないが、猫が一番重要な鍵となっている。
小説の中とはいえ人や犬が殺されたのだから、痛快というべきではのだろうが、しかし猫好きとしては、猫一匹の葬式に「大名や武家からも会葬に来て、五百人も集まった」というくだりを読めば思わずにんまりしてしまうのではないだろうか。
たとえ集まった人間のほとんどが猫ではなく飼い主のご機嫌取りだったとしても、江戸時代に愛猫の葬式を出して会葬者が五百人となれば、作り物の小説とわかっていても何となく嬉しくなってしまう。

この幸せな猫の飼い主がしたことは許されるべき事ではなかったかもしれないが、「江戸時代にもこんな幸せな猫がいたのかなあ」という夢は運んでくれる。

(2005.12.20.)

森村誠一『猫の自殺』

森村誠一『猫の自殺』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『猫の自殺』
「非道人別帳五 紅毛天狗」収録

  • 著:森村誠一(もりむら せいいち)
  • 出版社:文藝春秋社文春文庫
  • 発行:2002年
  • NDC:913.6(日本文学)小説
  • ISBN:4167191164 9784167191160
  • 316ページ
  • 登場ニャン物:-
  • 登場動物:-

 

目次(抜粋)

  • 死出参り
  • 金隠し不動
  • 化け犬祝言
  • 悪の面目
  • 猫の自殺
  • 紅毛天狗
  • 邪神符

 

著者について

森村誠一(もりむら せいいち)

埼玉県生まれ。青山学院大学卒業後、ホテルマンとして勤務するかたわら、評論、小説を書く。1943年夏より文筆業に専念。44年『高層の死角』で第15回江戸川乱歩賞を受賞。以後社会は推理の旗手として多くの読者をもつ。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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