須磨章『猫は犬より働いた』
よくぞ言ってくれました!超おすすめ♪
猫派にとっては、読んでいてすごく気持ちの良い本である。
こういう本を待っていました!という人は多いのではないだろうか。
タイトル「猫は犬より働いた」、これはおそらく世間一般の常識とは反対だろう。著者自身が後書きでこんなことを書いているくらいだ。
このタイトルは、最初はやぶれかぶれで思いついたものだった。どうせ犬の方が役立っているに違いなく、勝負はみえているが、「挑戦的にいってみよう」という気持ちだ。
あとがきより
しかし、書き終わった著者はこう言う。
いま私は「猫は犬より働いた」という事実を、実感として受け止めているのだ。
あとがきより
私は、しかし、何年も前から信じていた。狩猟と牧畜の国は知らないが、少なくとも我が農業国日本においては、長い歴史上ずっと、猫は、犬よりはるかに有益で重要な動物だった、と。
なぜそう信じるようになったか。
それは私が都会を離れ、辺鄙な田舎の合掌造り古民家に引っ越したからである。
番犬は集落全体で3~4匹もいれば事足りる。しかし昔の農村で、もし猫が全くいなかったらどうなっただろうか。おそらく、全然生活が成り立たなかったといってもいいくらいに、大変なことになったのではないだろうか。
今の世でさえ、どこの家もネズミに悩まされている。この集落でネズミ害がないのは、8ニャンに守られている我が家だけである。だからもう実感として理解できてしまうのだ。猫は農村に必要不可欠だったと。
日本で最初に猫を論じた人といえば宇多天皇(在位887―897年)だが、その文章の中ですでに、「よくネズミを捕る」という表現が見られる。また今昔物語では、猫を怖がる男を「ネズミの生まれ変わりだろうか」と書いている。猫は日本に入ってきた当初からネズミ番として大活躍していた。
この本の中に、興味深いデータがある。
明治42年に内務省が東京の猫の数を調査したところ、もっとも多かった府中では猫飼育率は57.8%、飼育頭数は、戸数14457戸に対し9462匹もいたそうだ(野良猫は含まず)。それに対し、下谷の飼育率はたった2.58%。田舎の府中と都会の下谷の差がすごい。それだけ田舎では猫の役割が重要だったということだろう。
猫たちはずっと、日本人と一緒に生活してきた。猫は、農作物を守り、蚕を守り、人を守った。日本人は犬は西洋人ほど活用できなかったが、猫は西洋人以上に活用した。
我が日本においては、たしかに、猫は犬より働いたのである。
(2005.9.25)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『猫は犬より働いた』
- 著:須磨章 (すま あきら)
- 出版社:柏書房
- 発行:2004年
- NDC:645.6(家畜各論・犬、猫)
- ISBN:4760126546 9784760126545
- 294ページ
- 登場ニャン物:多数
- 登場動物:-
目次(抜粋)
- プロローグ――猫派からの反論
- 1 現代猫の憂鬱
- 車が危ない、人が怖い
- “野良猫”今昔
- その他
- 2 日本渡来物語
- 実録・船の守り神
- 玄奘三蔵法師のお伴
- その他
- 3 唐猫ブーム
- 天皇のご寵愛
- “ねうねう”は愛の唄
- その他
- 4 お上のお触れ
- 犬は外、猫は内
- 高札――放ち飼いにすべきこと
- その他
- 5 鼠退治
- お蚕さまを守れ
- 殿様の”猫絵”
- その他
- 6 時を刻む”猫”
- 朝鮮出兵・陣中時計
- 東洋の神秘
- その他
- 7 瞳の中に何を見たか
- 闇夜の救世主
- 三十万体のミイラ
- その他
- 8 貴族の館へ
- 魔女狩り
- パリの虐殺事件
- その他
- 9 現代猫の”新職業”
- 世界唯一の”猫劇場”
- 密輸阻止官の悲劇
- その他
- エピローグ――ネコとヒトの未来
- ネコとヒトの”世界地図”
- ネコとヒトの”関係史”
- 参考文献・資料