群ようこ『おやじネコは縞模様』
顔がでかくて目がとってもちっこい猫。
体はずんぐりと大きく、股間には立派な玉がぶら下がっている。今風に外ネコというよりは、野良ネコといったほうがぴったりの風貌の、きわめて不愛想な猫、彼がこの本の主役「しまちゃん」。
マンション最上階(といっても、3階)の、群さんのベランダに、ふらりとやってきては(なんかくれー)念派を送ってくる。決して鳴かない、ただちっこい目でじーっと顔を見つめ続けるだけ。群さんはそそくさと猫缶を開けドライフードを盛って、しまちゃんにさしあげる。しまちゃんは、群さん宅で食事をすませると、ベランダ伝いに隣りに行く。隣には、群さんの友人が住んでいて、同じく猫好きである。しかも数年前に愛猫を亡くして今は猫無しの生活である。当然(?)しまちゃんはここでも歓迎されて、一個何百円もする高級生卵や、新鮮な牛乳、ときにはデパートで購入した牛肉や刺身をもらう。群さん宅で食事をした後、しまちゃんは、隣でも食べるのである。
こんなにお世話されているのに、しまちゃんは半径1メートル以内には近寄らせない。触ろうとすると逃げてしまう。
しまちゃんは、意外と「ケンカに弱い雄」でもあった。しばしば怪我を負って現れる。ボロボロのヨロヨロにされたこともある。そんなになっても、しまちゃんは触らせない。群さんも友人も、やきもきしながら見守るしかない。
群さん宅にはしいちゃんという愛猫もいる。気の強い雌である。しまちゃんがやってくると、しいちゃんはぎゃいぎゃい騒いで怒る。群さんがこれほど猫好きなのに、しいちゃんしか飼っていないのは、この性格では多頭飼いなんて無理だとあきらめているからである。
・・・と、そんな、群さんとしいちゃん・しまちゃん、さらに町のほかの生き物たちを、おもしろおかしくつづったエッセイ集です。
私が笑っちゃったのは、「ちゅう むちゅうになる げっ歯類!」の章の、次のくだり。げっ歯類たちがそろっていると知って、井之頭自然文化館へ出かけた時の話です。
資料館に入ったとたん、私は、
「わあ、げっ歯類の匂いがする」
とテンションが上がった。
昔、モルモットやハツカネズミを飼っていたときの排泄物の匂いが、蘇ってきたのである。
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ネズミの排泄物のニオイ、いえ、匂いを嗅いで、大喜びの群さん。これ、好きな人でなければ絶対にわからないであろう感覚ですよね?
私も昔はハムスターを何匹も買っていました。だから今でも、ハムスターの排泄物の匂いを嗅ぎつけると、うれしくて懐かしくてテンションが上がってしまいます。群さんと同じです。動物と暮らすには、その排泄物の匂いまで愛せないと、ちゃんとお世話はできないのです☆
もうひとつ、気に入った章。「外ネコの腹芸」。
群さんのエッセイですから、明るい文章で楽しく読めてしまいますけれど、でも書いている内容って、我々猫愛護家にとっては、相当深刻なことなんですよね。どの子もここに出てくる子のようになってくれればよいのですけれど・・・・なかなかそうはいかないのが現実・・・
動物たちと東日本大震災のときの話も印象的です。群さんのお住まいは東京都内ですから、揺れたといっても東北の被災地とは比べ物にならないわけですけれど、そんな中、群さんの観察眼(ここでは観察耳?)は、しっかり観察していました。
意外なことに、近所の犬たちはあのとき、吠えなかったそうです。少しでも不審な出来事があれば吠える犬でも、あの大震災のときには押し黙ってしまったそうです。
2018年(平成30年)6月18日に発生した大阪府北部地震のとき、うちの方は震度3もなかった程度でしたが、うちの犬ゴンはその直前から狂ったように吠えました。あまりに吠えるのでゴンの様子を見に行ったくらいです。ゴンに声をかけた直後に揺れました。
だから犬は地震の時は吠えるのかと思ったのですが、あまりに大きな地震だと、犬でさえ黙り込んでしまうのですね。驚きです。
全章、生き物について書かれたエッセイ集です。猫が過半数、ほかは犬やサルやげっ歯類や蚊など。おすすめの一冊です。
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『おやじネコは縞模様』
- 著:群ようこ(むれ ようこ)
- 出版社:株式会社 文芸春秋 文春文庫
- 発行:2014年
- 初出:初出誌「オール読物」2010年6月号~2011年12月号
- NDC:914.6(日本文学)随筆、エッセイ
- ISBN:9784167902636
- 196ページ
- 登場ニャン物:しまちゃん、しい、ほか
- 登場動物:犬、クマ、ハツカネズミ、蚊、ほか