エラリイ・クイーン『九尾の猫』

本物の猫は出てこないけれど。
この話、実は本物の猫は一度も登場しない。猫が絞殺されたとか、されなかったとかという句が、数カ所で見られるだけだ。ので、厳密には猫本とはいえないのだが・・・
冒頭からいきなり〈猫〉という言葉が出てくる。そして、この文庫本にして400pの長編の、最初から最後まで、この〈猫〉が暴れ回るのだ。
そう、探偵エラリイ・クイーンが追っている謎の連続殺人鬼のあだ名が〈猫〉なのである。
推理小説の常として、犯人が誰であるのかは、最後の瞬間まで明かされない。そして、〈猫〉は殆ど全ページに登場するといっていいくらいに、頻繁にしつこく登場するのだ。
読後の感想はどうしたって「猫本」なのである。
これほど「猫」に満ちあふれていて、しかも面白いのだから、紹介しないわけにはいかない。
推理小説好きの人は是非読んでください。
ところで、この本の原題は ”Cat of Many Tails”(多尾の猫)。
尾が幾本にも別れた猫といえば、日本の猫又。世の東西にかかわらず、猫の尾は分かれるというイメージがあるのだろうか?
そして、和題の「九尾の猫」を英語に直訳すると ”Cat of Nine Tails” となるわけだが、実は英名 ”Cat’o’nine-tails” というものが存在する。
昔、軍艦で懲罰などに使った鞭がそれなのだ。
結び目がある九本の革ひもが付いていて、打たれた傷跡が猫の爪で引っ掻かれたようだったからだそうだ。
しかし、その鞭を振り回すにはある程度広い場所が必要で、そこからとても狭苦しいことを英語で 「猫を振る余地も無い There is no room to swing a cat」 と言うようになったそうな。
・・・・和題の「九尾の猫」を見たとき、その鞭を連想してしまい、「いつ海軍兵が出てくるんだろう」と、期待しながら読んでしまった。最初から原題をみていれば惑わされなかったのに。
他にエラリ・クイーンの小説では、「死んだネコの冒険」(早川書房「犯罪カレンダー」収録)というものがあるが、これは、黒猫装束の人間が出てくる話で、本物のネコは登場しない。
(2002.4.10)

エラリイ・クイーン『九尾の猫』
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『九尾の猫』
- 著:エラリイ・クイーン Ellery Queen
- 訳:大庭忠男(おおば ただお)
- 出版社:ハヤカワ文庫
- 発行:1987年
- NDC:933(英文学)長編推理小説
- ISBN:4150701180 9784150701185
- 414ページ
- 原書:”Cat of Many Tails”
- 登場ニャン物:-
- 登場動物:-