谷口ジロー『狼王ロボ』
シートン 旅するナチュラリスト 第1章。
作画:谷口ジロー、原案:今泉吉晴の人気シリーズ第一弾。
「狼王ロボ」は、シートンの動物記の中でも、一番有名な話ではないだろうか。
その「ロボ」を忠実にマンガにしたのがこの作品。
私は猫は大好きだが、犬は興味がない。
飼い犬より断然、オオカミなのである。
そのオオカミ好きの原点は、おそらくロボだ。
子供の頃にロボを読み、オオカミに心底惚れた。
以来、犬にはどうも関心がむかない。
ロボは偉大なオオカミだった。
信じられないほど賢く、用心深く、人を遙かに出し抜く知恵を持っていた。
その家族愛も人より遙かに深かった。
そのロボに若きシートンが挑む。
このマンガの良いところは、シートンのオオカミに対する深い愛情や尊敬を、しっかり表現していることだ。
ロボの話は、単なるハンターと獲物の冒険物語ではない。
偉大なる魂と魂のぶつかり合いである。
シートンほど深くロボやオオカミたちを愛した人間はいなかった。
深くオオカミを理解した人間もいなかった。
ロボは最後はシートンの手に捕まり死んでしまうのだが、そのシートンほどロボの死を悲しんだ人間もいなかった。
この戦いで勝ったのはシートンではなく、ロボの方だった。
「狼王ロボ」は、シートンがロボに捧げた賛歌、ラブソングに他ならない。
谷口ジローのマンガは、そのシートンの思いを、あますところなく描いてくれた。
描きすぎて、シートンが最初から最後まで憂鬱な顔の沈んだ男になってしまった嫌いはあるけれど、しかし、シートンの気持ちはよく伝わって来ると思う。
シートンがロボと戦い、その顛末を「カランポーの王・ロボー」に執筆したのは、1894年。
そして、・・・
そのわずか数年後、我が日本では、国内に生息していたオオカミ2亜種が絶滅していた。
エゾオオカミは北海道に生息していた。
最後のエゾオオカミは、1896年に函館の毛皮商人が扱った毛皮と言われている。
エゾオオカミ絶滅の最大要因は、1876年政府が出したオオカミ駆除奨励策(最高額十円もの賞金が出た)。
1888年に奨励策を廃止したときにはもう手遅れだった。
わずか12年の駆除奨励でエゾオオカミは永久に地球上から姿を消してしまった。
エゾオオカミに遅れることわずか数年。
かつては本州・四国・九州に広く生息していたニホンオオカミも絶滅した。
最後の個体確認は1905年奈良県鷲家口でとらえられた一頭だった。
今、アメリカでは「オオカミ復活プロジェクト」が行われている。
過去のアメリカ人はオオカミを殺しすぎた。
生態系のバランスを大きく崩してしまった。
今頃になって、オオカミを元の生息地に復活させ、自然界のバランスを取り戻そうとしているのである。
さらに日本でも一部の人々によりオオカミ復活運動がおこなわれている(→参考HP「日本オオカミ協会HP」)。
まだごく小さな運動に過ぎないが、やっている人たちはきわめて真剣なようだ。
オオカミを放つことで、シカなどによる植林被害を防げると主張している。
オオカミから見れば、人とはなんて愚かな、の、一言しかないだろう。
我々人類はオオカミにこれ以上バカにされないように頑張らないといけないのだが・・・ヒトはロボには永久にかなわないような気がする。
(2006.8.9)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『狼王ロボ』
シートン 旅するナチュラリスト 第1章
- 著:作画:谷口ジロー(たにぐち じろー)
- 原案:今泉吉晴(いまいずみ よしはる)
- 出版社:双葉社アクションコミックス
- 発行:2005年
- NDC:726(マンガ、絵本)
- ISBN:4575939390 9784575939392
- 279ページ
- 登場ニャン物:-
- 登場動物:ハイイロオオカミ、他多数