赤川次郎『三毛猫ホームズの騒霊騒動(ポルターガイスト)』
幽霊にまでモテモテの「もてない刑事」義太郎?(笑)
片山義太郎。警視庁捜査一課刑事でありながら、いたって気が 弱く 優しく、血を見ると貧血をおこすという、童顔・なで肩・ひょろのっぽ。
もうひとつの特徴(?)が、女性恐怖症。
若くて美しい女性をみるとガッチガチに固まってしまう。
そんな義太郎にも、取り柄があった?
あまりに気が優しいが故に、亡霊を怖がるより、可哀想な身の上話に同情して話し込んでしまい、すっかり気に入られてしまったのである。
その亡霊は、若くて美しい、旧家の箱入り娘だった。
両親に溺愛されて成長したが、過保護な娘の悲劇、人を疑うということを知らず、悪い男に弄ばれ捨てられた。
娘は、両親がちょっと目を離したスキに自殺してしまった。
両親は悲嘆のあまり、車ごと水に飛び込んだ・・・
なぜその亡霊と義太郎が知り合いになったかというと。
その少し前。
ポルターガイストが出る旧家のうわさを聞きつけ、あるテレビ局がオカルト番組を企画した。
企画プロデューサーが義太郎の同級生だった縁で、義太郎も出演要請される。
で、上記の展開となるわけである。
まず義太郎が、亡霊と仲良くなる。
義太郎がテレビに出るとなれば当然、妹の晴美と、三毛猫ホームズも一緒にくっついてくる。
その結果、ホームズや晴美や他の人々も亡霊と仲良くなり、彼女に肩入れすることになる。
そして、もちろん、殺人・・・
* * * * *
この作品では、ホームズはあまり活躍しません。
三毛猫ホームズシリーズは、猫のホームズが、人間をしのぐ洞察力と推理力でビシバシ事件を解決するという、ある意味非現実的な設定が面白いのですが、この作品では、相手は超現実的なポルターガイスト。
さしものホームズといえど、生身の猫。
ポルターガイストの超現実ぶりには、かなわなかったのでしょうか。
猫ですから、生身の人間を相手にするより、霊魂を相手にする方が、気が楽だったかもしれませんね。
ところで、本とは関係のない話ですが。
猫をよく知らない人が、猫を気味悪がる理由の一つとして、「なにもない壁をジーっとみつめていたりするでしょ!」というのがあります。
でも、「犬って何もない場所のにおいをクンクン嗅いで不気味」とは誰も言いませんよね。
誰だって、犬の嗅覚が優れていることを知っているから。
それと同じことなんです。
猫の聴覚は、人間の8倍~10倍以上といいます。
しかも、個々の音を聴き分ける能力にもすぐれています。
人間は大きな音がしていると小さな音は聞き分けられませんが、猫は、「ロックが生演奏中のステージの裏側に突然飛び込んでネズミを捕まえた」なんて話もあるとか。
ロック演奏の中、ネズミの鳴き声か足音を聞き分けた、ということです。
そのくらい、猫の耳は鋭い。
何もない壁をジーっと見つめているように見える猫。
実は、壁のむこう側を虫が這っているとか、外壁のまわりを羽虫が飛んでいる音を聴いていたりしているんです。
猫の聴力を考えれば、ホームズがいつも、人間の誰よりも早く危険を察知するのは当然といえるでしょう。
(1988年8月28日)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『三毛猫ホームズの騒霊騒動(ポルターガイスト)』
- 著:赤川次郎(あかがわ じろう)
- 出版社:光文社 カッパノベルズ
- 発行:昭和63年(1988年)
- NDC:913.6(日本文学)推理小説
- ISBN:4334027679
- 206ページ
- 登場ニャン物:ホームズ
- 登場動物: -