赤川次郎『三毛猫ホームズは階段を上がる』
姑による壮絶な嫁虐め、マザコン夫も100%姑の味方。
さびれた商店街で、老いた店主が殺された。
小さな金物屋。どうみてもお金なんかありそうにない、古びた店構え。
なぜ強盗は、こんな店の老人なんかを狙ったのか?
その主婦は、事件のとき、偶然、店に居合わせた。
姑にいびられ、夫に怒鳴られ、幼い娘を抱えて、パートも抱えて、疲労困憊した女。
犯人の顔を目撃した唯一の証人だったが、・・・
* * * * *
今回は、無実な被害者は老人一人、他の被害者たちは皆、何かしら罪のある人ばかりでした。
正直、殺されるほどの罪とは思えない人も多いのですが、それでも、罪のない人々が殺されるシーンよりずっと良いと思います。
赤川次郎氏の作品は、なにしろ死人が多いのです。あまりに簡単に人が殺され、殺害動機も単純すぎることが多く。
推理小説といえば殺人がつきものですが、それにしても、毎回これほど多人数が殺される「エンターテインメントミステリー」なんて、他にないのではないかと思うほど。
にもかかわらず、明るく、読後感も悪くないのは、殺人の動機の多くが^「正義感」や「義憤」によるものだからでしょうか。
たとえそれがどれほど幼稚で間違った正義感であろうと、憎悪や怨恨による犯行のような、ドロドロしたものは出てきません。
あと多いのが、正当防衛。たとえ過剰防衛ぎみだったとしても、やはり、ドロドロはしません。
さらに、赤川氏の文体と、作品にあふれる元気な女性たち。
よく考えれば、おそろしく残虐なシーンも多いのに、それを明るく笑い飛ばしてしまう文才は、他の人にはまったく追従不可能な、赤川氏ならではのものでしょう。
また、私が三毛猫ホームズシリーズのファンで居続ける理由が、今さらですが、もうひとつわかりました。
まったくの私見、偏見ですけれど。
それは、食べるシーンはとても多い(石津なんかほとんど常に?食べ物とセットで登場)のに、無駄な説明がいっさいない、ということです。
いちばん多く登場する料理は、おそらく、お茶漬け。それも、白米に急須のお茶をかけただけの、超シンプルなもの。
つぎはカレーかな?あとコーヒー?
たまにフランス料理フルコースなどの豪華な食事もしているけれど、そういうときはたいてい、誰かに招待されて。
そしてコース内容については、ほとんど説明無し。石津が喜んで食べる以外は。
世の中には多いですよね。やたら料理の説明が多い小説。
これはどこの牛のどのパーツをどれほど苦労して調達したか、それを、どんなスパイスを使ってどんな調理器具でどのように焼いたか、合わせるソースは(・・・とまた長ったらしい説明)、そして、この肉にはどこどこの何年製のワインでなきゃ!云々。
グルメ小説なら、それでよいでしょう。でも、ミステリーでそれをやられると、ウンザリします。たいていすっ飛ばして読みます。だって関係ないじゃん!料理の材料や調理法が直接事件と関係がある場合を除き、ミステリーにくどくどしいグルメ解説は不要です。
三毛猫ホームズシリーズには、そういう「余計なもの」がない。とても好感を感じます。
・・・あ、でも、ちょっと心配になるかも?赤川次郎氏もお茶漬けばっかり召し上がっているのかと。
体に良いものを取って、うんと長生きして、そしてこれからも、傑作を書き続けてくださいにゃあ!!!
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『三毛猫ホームズは階段を上がる』
- 著:赤川次郎(あかがわ じろう)
- 出版社:光文社 光文社文庫
- 発行:2014年
- NDC:913.6(日本文学)推理小説
- ISBN:9784334767037
- 292ページ
- 登場ニャン物:ホームズ
- 登場動物:-