赤川次郎『三毛猫ホームズの家出』
片山義太郎、警視庁捜査一課の刑事、独身、女性恐怖症・高所恐怖症・血を見ると貧血をおこす!
妹の晴美、本職はカルチャースクールの受付嬢なのに、いつも兄にくっついて歩き事件に顔を出す。
目黒署の石津刑事は、そんな晴美にぞっこんで、いつも晴美に付き添い、つまり、義太郎ともいつも行動を共にしている。
そして、もちろん、主役のホームズ。三毛猫。雌。誰よりも鋭い知能、鋭い勘、鋭い観察力で、頼りになる用心棒でもある。
三毛猫ホームズの通信簿
空き巣が、殺されていた。盗みに入った家の中で。
その夜、娘のリカ10歳は、通信簿をもらって帰る日だった。
あいにくの成績だったにもかかわらず、なぜかその日に限って、パパは殴らなかった。
それどころか、ホテルに食事につれていってくれて・・・
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三毛猫ホームズの殺し屋稼業
なんと、義太郎が殺人を頼まれた!?
義太郎は刑事なのに、相手はそうとも知らずに・・・
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三毛猫ホームズの催眠術
女性は、占いとか、神秘の館的なものが好きだ。
ちょっとアルコールの入ったOL4人組が、催眠術の館に入ったのも、ごくふつうの成り行きだった。
催眠術にかかった一人がとんでもない内容を語りだすまでは。
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三毛猫ホームズの家出
この短篇は、・・・お話としてはともかく、書かれている内容が、猫愛護サイトとしては許しがたいものがあります。
以下、ネタバレを読みたくない人の目に入りにくいよう、文字色を【極薄】にして書きます。
読むには、ハイライトして色を反転させてください。
お手数をおかけして申し訳ありません。
!!! ネタバレ注意 !!! ネタバレ満載 !!!
まず、晴美たちのホームズの扱いがこわい。
公共機関であるバスに乗せるのに、かごにも入れずリードも付けず、しかもひとり後ろの席に座らせる?猫を?
ありえません!
いくらホームズが賢い猫だからって、ホームズに何かあったらどうするつもりなのか。
しかも、その結果、ホームズが見知らぬ女性について降車してしまっても、晴美の方はホームズには何か考えがあるのだろうと心配もせず。
自分がホームズを邪魔者扱いしたから家出したのだと猛省する石津の方が、よっぽど猫思い。
それから。
ホームズがついていった女性「道子」の行動がまったく理解できない。
道子の家では「クミ」という猫を飼っていた、そして道子もそれなりに可愛がっていたかのような描写なのに、そのクミが自宅の真ん前に車に轢かれて死んでいるのを見つけても、
「しゃがみ込んで手をのばしかけたが、やめておいた。」(page 33)
なにこれ?
いくら直前に、母親の不倫現場らしきものを目撃して動揺していたからって、我が家の愛猫が、車に轢かれて冷たい路上に無残に横たわっているのを放置するの?
しかも、それを家に戻っていた母親に告げるでもなく。
そしてその母親も、クミを見つけていながら放置していた。
夜中に思い出して、クミが可哀想だからではなく、娘の道子が知ったら悲しむだろうと思いなおして、死体を片づけようと外に出たら、クミの死体はなくなっていた。
妙だとは思ったけど、
「きっと、お巡りさんがパトロールでもしていて、見つけて片づけてくれたのかしら、と思って・・・」(page 36)
信じられない!!!!
片づけて「くれた」あ!?
これでは、まったくのゴミ扱い。
あんたんちの猫だろ!家族だろ!
埋めてあげるでもなく、死を悼むでもなく!
こんな女だから、実の娘に、愛人と一緒になるためにお母さんがお父さんを殺したんだ、なんて誤解されるんだろう。
その「お父さん」は結果的に、お母さん以外の女=お父さんの愛人に殺されていたわけだけど、(つまりダブル不倫家庭だったわけね)、その愛人がお父さんを殺した理由もひどい。
お父さんが、猫のクミを大事に思うあまり、愛人との駈落ちに、どうしてもクミもいっしょに連れて行くと主張したのが発端なのだ。
「『(前略)あの人は、クミと一緒でなきゃ行かない、と言ったんです』
『変わっているわね』
と晴美は目を丸くした。」(page 48)
おやまあ!晴美って、そこで目を丸くして驚くような女なんだ。
目を丸くして驚くってことは、もし晴美自身なら・・・平気でホームズを置き去りにして男と逃げちゃうってことだよね?
そういうことだよね?
そして、最後の、義太郎と晴美の会話。
「『うむ。やっぱり変わっているよな、猫ばっかり可愛がるってのは』
『大人になり切れていない人だったんじゃないの?』」(page 50)
家族を置いて、愛人と駈落ちしようなんて男が、大人になり切れていない人ってのは当然だ。
大人の男とは、守るべき相手を、何があっても最後まで守り抜く人間のことだと思うから。
・・・この男は、人間の家族は守らなかったが、家族の中で一番弱い存在である猫は守ろうとした。
男が示した唯一の男らしい責任感だった、と、私は思うのだけど。
赤川次郎氏って、ストーリーの中でも、猫のホームズを実に都合よくつかっているだけで、”猫”に対する敬意とか愛情ってほとんど感じられないんですよね。少なくとも私には。
私は自他ともに認める赤川次郎ファンだし、彼の膨大な作品もほとんど全部読んでいるけど、氏の猫の扱い方だけは、どうにもぜんぜん賛同できずにいる。
この短篇は、その顕著な一例だ。
ホームズの挿絵が、何冊回を重ねてもいっこうに訂正されないのも、氏が結局は猫にあまり関心がないからではないかと愚察せずにいられない。
だってもし私が本を出すとして、挿絵のトロの眼が寄っていなかったら、「こんなのトロじゃない!」とただちに苦情をいれるに決まっているから。
(愛猫トロは強度の内斜視です)
!!! ネタバレここまで !!!
(1992年12月15日)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『三毛猫ホームズの家出』
- 著:赤川次郎(あかがわ じろう)
- 出版社:光文社 カッパノベルズ
- 発行:1992年
- NDC:913.6(日本文学)推理小説
- ISBN:4334070175 (光文社文庫=9784334721855)
- 193ページ
- 登場ニャン物:ホームズ、クミ(『三毛猫ホームズの家出』)
- 登場動物:-
目次(抜粋)
- 三毛猫ホームズの家出
- 三毛猫ホームズの通信簿
- 三毛猫ホームズの殺し屋稼業
- 三毛猫ホームズの催眠術