木村忠啓『銀色の猫』

木村忠啓『銀色の猫』

十返舎一九がまだ無名だった頃。

なんと、十手を使う身分だった?

あらすじ

重田貞一(しげたさだかず)は、いずれ筆一本で生計を立ててやると固く決心していた。が、今はまだ無名。稼ぎもない。

なので今は、小田切土佐守直年(おだぎりとさのかみなおとし)のもと十手を持ち、さらに岩徳という巨漢をも使う身になっていた。

その貞一のもとに、ある依頼がきた。なんと失踪した猫を探してほしいという。しかも法外な礼金を出すという。よほど可愛がられていた猫なのか?それとも何かいわくが?

依頼主は、いかにも実直そうな男。大店の番頭で、名は勝助という。何故か「金子の件は主人には内密に願いたい」といい、その理由として、お内儀(かみ)さんが可愛がっていた猫だが、主人にはなつかず、それで主人も嫌っていたからだ、と。

いまいち腑に落ちない貞一たちだが、引き受けたからには仕方がない。江戸中を歩きながら一匹の猫を探し回るが、そこへ貞一の命を狙う者が襲ってきたり、・・・

木村忠啓『銀色の猫』

感想

十返舎一九といえば、誰でもまず連想するのが『東海道中膝栗毛』でしょう。弥次さん・喜多さんのズッコケ道中は児童書にもよく作られていて、私も初めて読んだのは児童書だったと思います。また日本で初めて筆一本で生計を立てたプロ作家としても知られています。

『東海道中膝栗毛』のあまりに剽軽な作風からはちょっと想像がつきませんが、元は武士でした。駿府府中の下級武士の子として生まれ、江戸に出てからは小田切土佐守につかえ、土佐守について大坂へも行ったが、その後、武家奉公をやめて作家になったそうです。この『銀色の猫』も、町人というより武士らしい貞一(一九)の一面が強く出ている作品となっています。

でも、なんというか、私の中では一九=弥次さん喜多さんの印象が強すぎて。『膝栗毛』は、たとえば曲亭馬琴『南総里見八犬伝』等と比べると、良く言えば庶民的でくだけた作品、悪く言えば下品な空騒ぎで、好みの分かれる作風だと思います。その品の無さは、児童書等にやさしく書き直されたものではなく、原作で読まないとわかりにくいかと思いますが、正直、私自身はあまり好きではありません。少なくとも食事中には読みたくない内容が多く、食事中にも読むクセのある私には嫌でした。(食べながら読むなと言われればそれまでですけど。)

あのようなものを書いた人=貞一が、この『銀色の猫』では随分とカッコよく描かれていて、そのギャップに慣れるまで時間がかかりました(汗)。もと武士とは私だって知っていましたし、多才で優れた人物とも思ってはいたのですが・・・でもねえ・・・弥次さん・喜多さんが頭の中でぐーるぐる(!)。

十返舎一九の作品を原文で読んだことのない方ならすんなり物語にとけ込めると思います。

ストーリーは面白かったです。最初は時代小説っぽいのですが、次第に推理小説の面が大きく出てきて、最後の方はすっかり「謎解き」でした。小説の長さの割には登場人物が多いので、それぞれの名前はしっかり覚えて読み進んでください。人物の整理さえ出来ていれば、ミステリー物の最大の楽しみ「謎解き」も大いに楽しめるでしょう。

猫という言葉は全編を通して出てきます。が、ほとんどが、猫を探しているという流れの中であり、本物の猫の登場シーンはわずか1回、ほんのちょこっと出てくるだけです。とはいえ、猫は謎解きの重要な鍵となっています。

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

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著者について

木村忠啓(きむら ちゅうけい)

2016年『掘りに吹く風』(単行本刊行時に『慶応三年の水練侍』と改題)で第8回「朝日時代小説大賞」を受賞。ほか、『ぼくせん 幕末相撲異聞』、『悪女のゆめ』等。
(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)

『銀色の猫』

十返舎一九 あすなろ道中事件帖

  • 著:木村忠啓(きむら ちゅうけい)
  • 出版社:株式会社双葉社 双葉文庫
  • 発行:2018年
  • 初出:文庫書下ろし
  • NDC:913.6(日本文学)時代小説
  • ISBN:9784575669213
  • 258ページ
  • 登場ニャン物:しろ
  • 登場動物:-
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