出久根達郎『漱石先生の手紙』
古本屋さんが、漱石の手紙を解説。
夏目漱石は生涯に二千五百通もの手紙を残したという。
その手紙を古本屋店主の出久根氏が、面白く解説したもの。
宛先は、正岡子規・寺田寅彦・芥川龍之介・森鴎外など今でも名が知られている人たちから、一ファンの読書宛の手紙、さらに、妻や愛児への手紙など。
漱石の人となりを知るには、手紙は大変貴重な資料となる。
漱石の息づかいを、漱石の小説以上になまなましく感じることが出来る。
深い洞察や人生論を書いた手紙も多く、中には「この一文は私の為に書いてくれたのではないか」と思いたくなるほど、こちらに訴えてくる手紙も多い。
私が学生時代にうなってしまった手紙がある。
久米正雄と芥川龍之介に宛てられた手紙である。
今思い出しても(暗記している)、ああそうだった、と反省せずにはいられない。
手紙の一部を三好行雄編『漱石書簡集』に抜粋していますので、どうぞ読んでください。
この本でもその手紙は取り上げられていた。やはり人の心を打つ手紙なのだろう。
出久根氏は書いている。
漱石は、人生の教師でした。日本で最高最大の教師でした。それは漱石の手紙を読むと、よくわかります。(中略)私たちに、『人は生くるに、かくあるべき』という教えを、手紙でわかりやすく、様々に説いてくれた、世情に通じた教師でした。
また、別のところでも、
義務教育九ヶ年だけ受けて社会に出た私には、漱石という文豪は、教師というより総合大学であった。私は漱石大学で、さまざまを学んだのである。
と書いている。
それは私とて同じだ。
私は一応大学は出たけれど、大学で学んだことと、漱石から学んだことと、どちらが多かったかといえば、漱石の方ではないだろうか(教授方、ごめんなさい)。
漱石時代の手紙だから、候文なども出てきて、現代の若い人にはちょっと取っつきにくい部分もあるかも知れないが、候文といっても所詮は手紙だから、読めないほど難しいことはないと思う。
また、漱石の高校時代の成績の話なんかもあって、全体としては気楽に読める本になっている。
・・・高校時代の漱石は、晩年の漱石像とはかなり違っていたらしい。
漱石というと漢籍の知識豊かで病弱な人と思い浮かべてしまうけれど、高校時代一番成績がよかったのは、実は意外な科目だったのである(これは読まれた時のお楽しみにしておきます)。
また、猫好きさんであれば、『吾輩は猫である』執筆前後の手紙もあるから、「猫」の背景が垣間見られて面白いかも知れない。
(2005.5.6)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『漱石先生の手紙』
- 著:出久根達郎(でくね たつろう)
- 出版社:講談社文庫
- 発行:2004年
- NDC:914.6(日本文学)随筆、エッセイ
- ISBN:4062748088 9784062748087
- 271ページ
- 登場ニャン物:
- 登場動物: