山本貞司『農村獣医奮闘記』

昔は「10年間の期限付き獣医師免許」があったなんて、知ってた?
昭和初期の、世の中がどんどんきな臭くなっていった時代。
馬は農耕馬まで軍馬として差し出さなければならなかった。
物資はすべて不足し、獣医師も大不足。
急遽獣医畜産科が設けられ「10年間の期限付き」獣医師免許なるものが発行される。
著者は兵隊に行きたかったが兄の薦めでとりあえず期限付き獣医師になった。
その後勉強を続け正規の獣医師免許もとった。
人間医療でさえ相当いい加減だった戦中・戦後。
まして獣医療となればいわずとしれたもの。
今から見ればトンデモナイ治療も多々行われていたが、そんな中、山本獣医師は県内最初の乳牛人工授精に取り組んだり、1日に44頭もの和牛を去勢したりと大活躍。
道具もない、薬もない、言っちゃ悪いが知識もロクに無い中、すごいなあと思う。
相手が体の大きな牛馬主体だったから、それでもなんとかなったのだろうか。
そう、今でこそ獣医師といえば犬猫ペットのお医者さんというイメージが強いけれど、昔は牛馬豚など大型畜産動物が対象だったんですよね。
ついでのオマケに犬猫も診る。
この本でも猫はオマケのオマケ、シャム猫が飼い主の女性を襲っちゃったという話が数行載っているだけ。
獣医師でありながら狩猟免許を持ち鉄砲かついで野生動物を撃っていたらしいのは、現代の感覚では理解不能な気もするけれど、自分が食べるものさえ無い戦中戦後は仕方なかったのだろう。
この本は、昭和を駆け抜けた一人の男の半生記として読んでください。
その男がたまたま獣医師だったわけだけど、獣医師ならではの話というより、昭和20年代30年代ってすごい時代だったんだなあと、そちらの方がよほど面白い。また内容も、動物の話は前半のみ、後半の約80ページは村人の話、ちょっとエッチなこぼれ話、山の生活の話など。
しかし正直、うちの猫たちはこの獣医師に診察して欲しくないなあ・・・
(2007.6.1.)

山本貞司『農村獣医奮闘記』

山本貞司『農村獣医奮闘記』
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『農村獣医奮闘記』
- 著:山本貞司(やまもと さだじ)
- 出版社:リフレ出版
- 発行:2006年
- NDC:914.6(日本文学)随筆、エッセイ
- ISBN:4862230245
- 185ページ
- 登場ニャン物:シャムネコ
- 登場動物:多数
目次(抜粋)
- 獣医を目指して
- 獣医事情
- 兄の勧め
- その他
- 馬
- 馬の頭骨を盗掘
- 馬の競り市
- その他
- 乳牛
- 人工授精、県内民間で第一号
- 胎盤除去手術で惚れられた
- その他
- 和牛
- 和牛の去勢ギネス級
- お光り様は効かなかった
- その他
- 豚
- 母豚の乳、爺が吸いほぐす
- 一つ目の子豚
- その他
- 山羊
- 綿羊の払い下げ
- 山羊乳
- その他
- 兎・鶏
- 兎の皮なめし
- 兎料理
- その他
- 犬・猫
- シャム猫に襲われ救急車
- 愛が子犬を助ける
- その他
- 野生動物
- 狩猟と剥製―芸は身を助く―
- タヌキの皮膚病―新聞のニュースから―
- 往診先で
- ペニシリン新発売
- タオルに「ゴム」
- その他
- あったとさ 茶飲み話
- 俺らあ嫁ご欲しい
- 鎌研ぎ
- その他
- 昨今の雑話
- 往診自転車
- 馬鹿でもマメならようがんす
- その他
- 私の青春
- 二十五回の引っ越し
- 沢田尋常高等小学校
- その他
- 山の生活―昭和のはじめ―
- ランプの生活
- 観音参りで―思い出の道―
- その他
- 実用新案
- あとがき
農村獣医奮闘記の書籍を探しておりますが、絶版でかつ古本も見つかりません。
獣医として大家畜と関わる者としてぜひ一読したく譲り受けることはできなかと思いコメントいたしました。
申し訳ございません。
本は私の大事なコレクションですのでお譲りすることはできません。
どこかで入手できますことを祈っています。