柿川鮎子『犬にまたたび 猫に骨』

柿川鮎子『犬にまたたび 猫に骨』

 

動物病院の日常をライターが面白おかしく楽しく暴露。

柿川氏は現在は兵藤動物病院のマネージャーだが獣医師でもトリマーでもない。元々はジャーナリストだ。 だから動物病院での出来事を書いた本なのだが、あくまで普通の人の視点で面白楽しく書いてある。獣医学の本ではないから誰でも気楽に読めます。

獣医師の視点・・・『はじめに』で、柿川氏について、院長の兵藤氏がこんなことを書いている。

私が動物福祉協会の理事をしている関係から病院では飼い主さんのいない動物を一時引き取って健康状態を確認した上、里親に出すボランティアをしています。野良猫の赤ちゃんは連れてこられた時点でほとんどが虫の息です。私の判断で安楽死処置をしていますが、ずいぶん経つのに柿川さんは慣れませんね。このへんもこれからの勉強課題のひとつでしょう。
page2

そう、獣医師なら、赤ちゃんを安楽死させることに「慣れる」事も必要なのだろう・・・多分。「慣れ」たら一人前の獣医師なのかもしれない。

が、私は人間として、そんなことに「慣れて」ほしくない。
正直、この『はじめに』を読んで、こんな本は放り出そうかと思った。こんなことを真っ先に書くような院長のもとで働いている人のエッセイなんか読めるもんかと思った。
が、柿川氏は「慣れて」いないようなので、用心しながら読み進んだ。

その結果、最初に書いたように、この柿川氏は普通の人の視点で動物達を見ていることがわかり、安心した次第。

・・・絶対に「慣れ」ないで欲しい。断じて。

それにしても、こういう本を読むのは動物好きの人がほとんどだろうに、こういう文章を平気で書く院長の「慣れ」に、私は薄ら寒い物を感じずにはいられない。そして、こういう人が動物福祉協会の理事だという・・・

一番ドキリとしたというか、考えさせらたのは、『パーティー欠席事件』という章である。
街の活動家達の悲願が実り、動物管理法が改正された。院長は活動家達を慰労しようとパーティーを企画した。が、

「出てくれない・・・・欠席ばっかり・・・」
パーティーに千円でも出すのだったら一頭でも犬や猫を助けたい、活動を熱心に推進した人々は欠席してしまった。参加したのは裕福な篤志家ばかりで、自分自身の身銭を切って動物達に捧げるという悲壮感にはほど遠い人たちである。
(中略)
「本当に動物達を支えているのは千円を惜しむような、外に出てこない人たちなんだね」
page160

私が日頃猫サイトなどで感じている通り、熱心な保護活動を行っている人ほど、文字通り身銭を切って切って、切り刻んでの活動となり、経済的にも苦しいだろうし、また、そのようなパーティーの無意味さも分かっているのだろう。
その一方で、いわゆる金持ちは動物のことなんか見向きもしない。ただ「寄付しました」という事実を作ることで「優しい人なのね」という評判を買いたいだけだ。金持ちはパーティーには喜んで参加する。優しい仮面を堂々とかぶれる絶好のチャンスだから。

院長の失敗は、活動家たちからも久しく千円を徴収しようとしたことにあるのだろう。思うに、彼らが必要としていたのは「慰労」なんかでなく、ノミ予防薬や療法食や不妊手術代だったということだ。期限切れで良いから高価なa/d缶(ヒルズ社の犬猫用高栄養食)を2箱進呈するといわれたなら、喜んで出席する活動家は多そうだけど。

そういえば昔、ア○ウ○イ社がテレビCMで「我が社はツシマヤマネコ保護のために寄付してきました・・・」みたいな事をさも誇らしげに宣伝していたが、私は知っている。急成長を遂げていた国際企業ア○ウ○イ社があのとき寄付したのはたった10万円だったということを。

同じ章に、Nさんという女性活動家の話が出てくる。

Nさんは豪快そのものだ。「犬や猫を棄てるな」と文字書きした白いジャンパーを着ている。ふだんはごくふつうのおばさんだが、棄てられた犬・猫を発見すると過激なパルチザンに変身。どんなことをしてでも救い出し、理想的な里親様をみつけるために奔走する。そのためには、

「街頭で地べたに座ってお願いします、ってやっちゃう」
Nさんは何回も警察に引っ張られて取り調べを受けている。
「最近は警察のほうもわかっていて、あまり厳しく言われなくなったけどね」
と笑うが、たいした根性であうる。
「お金もないし、名誉も家族もない。何もないから猫たちのためになんでもできるのよ、ハハハ」
page163

ハハハと笑い飛ばせるような内容ではない。日本の動物愛護はこのような人達によって細々と支えられているのだ。著者はこれらのことをいちいち驚きの目で見ているが、私からいわせれば、柿川氏、なんとも甘い。
これが日本の現状なのです。なんとかしなければならない現状なのです。

(2003.10.13)

柿川鮎子『犬にまたたび 猫に骨』

柿川鮎子『犬にまたたび 猫に骨』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『犬にまたたび 猫に骨』

  • 著:柿川鮎子(かきかわ あゆこ)
  • 出版社:講談社
  • 発行:2001年
  • NDC:645.6(家畜各論・犬、猫)
  • ISBN:4062106868 9784062106863
  • 245ページ
  • 登場ニャン物:多数
  • 登場動物:犬

 

目次(抜粋)

  • はじめに――すべての飼い主様に
  • 愛と抜け毛の日々―動物病院の春
  • フィラリア予防と熱射病対策の日々―動物病院の夏
  • 肥満対策と冬支度の日々―動物病院の秋
  • 保温と睡眠の日々―動物病院の冬
  • あとがき――あなたしかみえない

 

著者について

柿川鮎子(かきかわ あゆこ)

日刊工業新聞入社。編集局記者として自動車、繊維・紙パルプを担当後、月刊誌「工場管理」編集に携わる。95年退社後ISOや現場改善、ITマネジメントを中心とするフリーのジャーナリストとして活躍中。現在、兵頭動物病院マネジャー。愛玩動物飼養管理師。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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柿川鮎子『犬にまたたび 猫に骨』

8.1

動物度

9.5/10

面白さ

7.5/10

読みやすさ

8.5/10

猫好きさんへお勧め度

7.0/10

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