川端裕人『竜とわれらの時代』

川端裕人『竜とわれらの時代』

 

40mにも及ぶ完璧な竜脚類の化石が日本で発見された!。

高校3年の時、風見大地は、竜脚類の化石を見つけた。祖母の文ばあと暮らすために、福井県手取郡荘山村の実家に引っ越して間もない時だった。

そのとき取り出せたのは歯の化石ひとつだけだったが、それだけでも、いかに貴重な化石であるか、恐竜好きな大地には十分すぎるほどよく分かった。巨大な首長竜だ!いつかこの化石を自分の手で掘り出してやる・・・大地は恐竜学者を目指して、一直線に進んでいく。

化石を発見したとき、弟の海也と、偶然居合わせた同級生・草薙美子も一緒だった。化石の発見と場所は、3人の秘密となった。

そして数年後。

大地は戻ってきた。アメリカ、否、世界最先端の恐竜博士、マクレモア教授に師事する大学院生として、あの恐竜化石を掘り出し研究するために。
弟の海也も文ばあの農地を継ぎたいと帰ってきた。一度は東京に出た美子も、白泉村役場を再就職先に選んで帰ってきた。

かくて、役者は揃った。

・・・揃った以上だった!
この後、とんでもない展開になる。

それにしても、なんて欲張りな小説なんだろう。

私なんて、最初の方の、次の部分でもう、天井を仰向いてワハハと笑いたいほど興奮したぞ。

「ジーザス・・・」とロジャーは呟いた。そして、大地を見た。「明らかに竜脚類だ。手前の長いものが大腿骨。奥にある大きな塊が骨盤。円柱に見えるのは脊椎だな。(中略)」
「関節したまま埋まっているということなのかな」
(中略)
「そう思って良い。それにこのサイズは半端じゃない・・・」
ロジャーは言葉を区切り、大地の眼を覗き込んだ。
「はっきりとは言えないが、わたしの感覚では、セイスモサウルスやアルゼンチノサウルスに匹敵すると思う」
(p.87~)

関節がつながったままの、セイスモサウルス級の竜脚類!
それも全身骨格?
それが日本の手取層に?

ドッヒャ~~~ン!!!

川端裕人『竜とわれらの時代』

川端裕人『竜とわれらの時代』

それだけじゃなかった。小説は、もっともっと欲張りだった。
最初期ティラノサウルス類の小型獣脚類。
哺乳類型爬虫類、トリティロドンの新属。
その他、その他・・・

本文中のあるページに、この地層で発見された化石群のリストがある。
その、内容のすごさといったら!
恐竜や古代生物ファンなら、その一部を見ただけでも、こぶしで机をドンドン打ち鳴らしながらバカ笑いせずにはいられないほどに、すばらしいリストなのである。もちろん、フィクションとはわかっているが、それでも、このリストを見ているだけで、私なぞはニマニマ笑いがとまらなくなっちゃうのである。

だから、あえてここには、どのページかは書かない。恐竜ファンならおそらく我慢できずに、真っ先にそのページを開いてしまうだろう。それではお楽しみは半減しちゃいますからね。

欲張りなのは、恐竜化石だけではない。

約800ページの長編。この長さに相応しく、内容も気宇壮大。
イスラム過激派によるテロ。
アメリカの聖書原理主義者(=進化論否定者)集団。
石油王の、豪壮すぎる趣味と遠望な野望。
科学者のありかた。
原子力発電所、プルトニウム。
それから、まさに「地に根を下ろした」生活者としての、お婆さん。ちんまりとちっちゃく座っているだけのようで、その存在感ときたら、登場人物中最大かもしれない。

物語はアメリカと日本とを、せわしなく行き来しながら、世界的テロから、手取群内の小さな自治体同士の争いから、恐竜や原発やIT最新技術や龍神伝説や、それから、ささやかな恋愛物語まで詰め込んで、世界最大級のクビナガ竜が暴れ回るように、あるいは、それこそ龍神様がのたうち回るように、世界中を嵐に巻き込みながら、ドスンドスンと進んでいく。

登場人物や、状況などの設定も面白いと思った。単純な二極対立ではなく、ほぼ常に三者を対比・比較させている。
まずは、化石の発見者が三人の高校生だったこと。
その化石を掘り出すのも、三人の大学院生。それも、日本人の大地、ロシア人で女性のカーチャ、熱心なイスラム教徒のベンという組み合わせ。
発掘のスポンサー、「財団(ザ・ファウンデーション)」の中心人物、ボビー・トーレ、ロジャー、ジョナサンの三人も、強烈に個性的で対照的だ。
宇宙開発と、原子力と、恐竜の対比。
大国アメリカと、アメリカ追従国と、アメリカ否定国。
聖書原理主義と、イスラム教と、日本の手取群に伝わる素朴な土着信仰。
その手取群には三つの自治体があって、狭い土地のなかでさらに競争しあっている。
堕ちた星の象徴のようなマクレモア教授。その逆を行く風見の父。俗世界から一足も二足も先へ進んでしまったような文ばあ。
いくつもの△が、万華鏡のようにクルクル重なりあって、位置や大きさや色を変えながら、さらに大きな模様を描いていく。

800ページをほぼ一気読みだった。とくに最後の150ページほどは、一度も中断できなかった。それほどに引き込まれた。あまりに盛り沢山なので、消化不良なテーマもあるが(中でも鳥と恐竜の関係論が気になる~)、なんせ相手はあのでっかい恐竜ですから、多少荒削りなのは仕方ない、ということで(笑)

最後に、もうひとつ、著者に拍手。テロだの、過激派だの、爆弾だのと、一歩間違えれば血みどろになりそうな題材を扱っていながら、登場人物は誰も殺害されない。残虐暴力シーンも無い。それなのに、この緊迫感、このダイナミックさはどうだ。・・・ハリウッドさんたち、どうか見習って欲しいものですね!!ドンパチ人殺しを連発しなくても、ドキドキ、ハラハラなストーリーは作れます。

(2011.2.6.)

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『竜とわれらの時代』

  • 著:川端裕人(かわばた ひろと)
  • 出版社:徳間書店 徳間文庫
  • 発行:2005年
  • NDC:913.6(日本文学)小説
  • ISBN:4198923132 9784198923136
  • 805ページ
  • 登場ニャン物:-
  • 登場動物:古代生物たち多数

 

著者について

川端裕人(かわばた ひろと)

東京大学教養学部(専攻は科学史、科学哲学)卒業後、日本テレビに入社。科学技術庁、気象庁の担当を経て、’97年い退社し、フリーランスに。’98年『夏のロケット』(文藝春秋)で第十五回サントリーミステリー大賞優秀作品賞を受賞。以後、『リスクテイカー』(文藝春秋)でデリバティブの世界に挑み、『ニコチアナ』(文藝春秋)でタバコとマジックリアリズムの世界を、そして『The S.O.U.P.』(角川書店)ではネット社会と、現代の最先端に接続する作品世界に定評がある。『竜とわれらの時代』(徳間書店)ではアメリカと恐竜に挑んでいる。最新作に『今ここにいるぼくらは』(集英社)『みんな一緒にバギーに乗って』(光文社)がある。小説以外に『クジラを捕って、考えた』(徳間文庫)『ペンギン大好き!』(新潮社)など、ネイチャーライティング系ノンフィクションも数多く発表している。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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川端裕人『竜とわれらの時代』

7.3

恐竜度

8.0/10

面白さ

9.0/10

猫好きさんへお勧め度

5.0/10

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