野村潤一郎『サルが食いかけでエサを捨てる理由』

野村潤一郎『サルが食いかけでエサを捨てる理由』

 

カリスマ獣医師が、「生きる」ということの本質に迫る!。

あの野村獣医師が野生ザルの研究書?
と、驚いたが、そうではなかった。

いかにも野村氏らしいというか、毎日、伴侶動物・愛玩動物やその飼い主達と接している都会の獣医師らしい内容の本だった。

身近な動物たちをとりあげ、人間生活に直結した話をしながら、生き物全体、さらに地球生命全体について、理解を深めようとする本だ。
それも科学的理解というより、感覚的理解ともいうべき、生き物同士の繋がりの大切さ、どんな生き物も価値ある存在であること、そういう基本的な概念を、小学生でもわかルような易しい文章で書いてある。
犬と猫の違いや、動物たちにも文化があること、昆虫は小さいけど本当はえらいんだとか、人間と動物の関係についてなど、読者を飽きさせない。

私は昔、鈴虫を買ってきて飼ったことがある。雄3匹雌3匹の計6匹。微妙に大きさや髭の長さが違ったり、中には脚の先を欠いている者もいて、それぞれ個体識別ができた。

よく観察したら、鈴虫にも個性があった。
いつもど真ん中で威張っている子。雌ばかり追いかけているプレイボーイ。隅っこでじっと動かない大人しい子。

しかし、虫博士とあだ名されていたある男性に「鈴虫にも性格があって面白い」と言ったら一笑のもとに却下された。「鈴虫は本能で動いているだけ。性格や個性なんか無い」と。

私は納得できない。実験してみた。鈴虫を入れていたプラケースの中身の配置を置き換えたり、倍以上の大きさのプランターに移し替えたり。

やはり、大人しい子はすぐに隠れてしまう。威張っている子はどこでも威張っている。雌ばかり追いかけていた雄は環境変化とは無関係に相変わらず雌を追いかけている。

この本には「昆虫にも心があるのか」という章がある。その中で野村獣医師はこう書いている。

少なくとも、「うれしい!」「やった!」という感情はあるでしょうね。ゴキブリだって「あ、やばい!」と思うから逃げていくわけです。感情があるから、やばいとおもうわけですよね。ちっぽけに見えるけど、虫にだって「危ない」「こわい」「頭に来た」「うれしい」。いろんな感情があるわけです。
page23

嬉しいねえ!やはり昆虫にも感情はあるよね。感情があるなら、個性もあって当然だろう。

野村潤一郎『サルが食いかけでエサを捨てる理由』

野村潤一郎『サルが食いかけでエサを捨てる理由』

野村獣医師は、知識も技術も超一流の獣医師なのだが、その考え方、動物たちに対する根本的な感じ方は、科学者より一般人に近いような気がする。それも虫取り網を振りかざして毎日野原を走り回る小学生の男の子ような。純粋に「だっておもしろいんだもん!こいつら、すごいんだよ!」みたいな感覚。
だから私には読んで納得できる内容が多いし、また、周囲の分からず屋に読ませたいことが沢山書いてある。

たとえばチワワを砂漠に放したら虐待だし、ライオンに首輪をつけたらかわいそうだ、ということです。
「人間が動物を飼うなんていうのは傲慢だ」という人に限って、チワワとライオンを同列に置いているのです。要するに、無知こそいちばんの悪だということです。チワワとライオンを同列に置くような人ですから、そういう人はニワトリを森に放しちゃったりするんじゃないでしょうか。「自然に帰れ」とか言って。それは人間の幼稚園児を、ジャングルに置き去りにするのといっしょのことですね。
page107

さて、家畜には野生動物とは違う性質があります。家畜はみんな、ネオテニー…幼形成熟なんです。精神的に、一生子どもなんですね。ですから、一生独り立ちできないのです。そんなわけで、家畜には、面倒を見る人間が、とうぜん必要なのです。イエネコは、人間が飼ってはじめてイエネコなのです。
page110

こういうことを全く理解していない人間のいかに多いことか。

私はどうしても猫たちのことを真っ先に考えてしまうが、捨て猫に食事を与えると、まるで凶悪犯を糾弾するかのような勢いで責める大人が大勢いる。彼らの言い分は決まってこうだ。
「野生動物は野生のままに」

イエネコ種のどこが野生動物?野良猫たちのいる環境のどこが“野生”?

面白くて読みやすいながら、書いてある内容はぜひあらゆる年齢・あらゆる階級の人々に理解して欲しい内容です。頭の先で知識として理解するのではなく、心で深く感じて欲しい記述があります。
超おすすめ。

(2007.12.28)

野村潤一郎『サルが食いかけでエサを捨てる理由』

野村潤一郎『サルが食いかけでエサを捨てる理由』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『サルが食いかけでエサを捨てる理由』
副題、シリーズ名など

  • 著:野村潤一郎(のむら じゅんいちろう)
  • 出版社:筑摩書房
  • 発行:2006年
  • NDC:480(動物学)
  • ISBN:9784480687388
  • 143ページ
  • 登場ニャン物:
  • 登場動物:

 

目次(抜粋)

序章 なぜ地球にはこんなにたくさんの生き物がいるのか
第1章 生き物にも心はあるか
第2章 犬と猫はどれぐらい違う生き物か
第3章 進化と生命の不思議
第4章 人間はどこからきてどこへいくのか
第5章 昆虫はえらい
第6章 食べ物と生き物の関係
第7章 人間と動物
第8章 生き物の気持ち
あとがき

 

著者について

野村潤一郎(のむら じゅんいちろう)

野村獣医科Vセンター院長。100匹以上の動物と暮らし、誰よりもその心を理解する、動物と正しい飼い主にとっては無敵の味方。最新のハイテク医療機器を揃えた清潔な病院は年中無休。全国からの患者さんは、多い日には200組以上が訪れる。オペ室は総ガラス張りにし、職人技の精妙でスピーディなメスさばきは包み隠さず公開している。近々水陸両用車を導入し、災害時には自ら救助活動に出動する予定。
主な著書に『ミミズに笑われない生き方』(サンマーク出版)、『ダーツよ、鉄の城を見張れ』(世界文化社)、『動物の面白知識100連発!』(岳陽社)、『動物病院飼いたい新書、ミレニアム改訂版』(ワニブックス)、『Dr.野村の犬にカンする100問100答』(他シリーズ刊・メディアファクトリー)など多数。

野村獣医科Vセンター http://nomura-v.com/

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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野村潤一郎『サルが食いかけでエサを捨てる理由』

9.2

動物度

9.5/10

面白さ

9.0/10

猫好きさんへお勧め度

9.0/10

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