ケイ『白い犬とワルツを』

妻を亡くした老人は・・・。
57年間連れ添ってきた妻が、死んだ。
心臓麻痺で苦しまずに逝けたのが幸いだった。
サム・ピークは家に独り残された。
脚が悪く、歩行器にすがってゆっくりと歩く。ビスケットの焼き方もわからない。
しかし、サムには7人もの子供達がいた。
さらにニーリーもいた。昔からピーク家を手伝ってきた婦人である。
もう良い歳だが、サムよりはよほどしっかりしている。
少々、いや、かなり口うるさい。
子供達、特に隣に住む娘達はパパに尽くし、毎日通って世話をした。
他の子たちも電話一本でたちまち駆けつけた。
婿達も優しかった。
ニーリーも頻繁に訪れた。
最愛の妻を亡くしたとはいえ、決して不幸な状況ではなかった。
むしろ現代社会では滅多に見られない、どこまでも仲の良い幸せな大家族だった。
それでもサムは淋しかった。わびしかった。もう妻はいないのだ。
そんなサムに近づいてきた、一頭の白い犬。
こんなに白い犬は見たことがない。吠えないし、何故か他の犬も吠えつかない。
サム以外の人間の前には姿を現さない。
ああそうだ、昔々、妻のコウラが拾って育てた犬も、こんな真っ白い犬だった・・・

ケイ『白い犬とワルツを』
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現代版おとぎ話、夢物語とでもいいましょうか。
この本がベストセラーになったのもわかります。
こんな老後を過ごせたら、と、誰もが憧れずにいられないような、愛に満ちた家族です。
特に男性には夢の老後だろうなあと思います。
パパが心配でお節介なほどに世話焼きな娘達、頼りになる息子達。
すぐ隣に住んではいるけれど、お互い独立はしていて、男としてのプライドも持ち続けている。
これだけ恵まれているなら、白い犬まで必要でないのでは、と言いたくなるような環境です。
それでも、サムには白い犬が必要だった。
それほどまでに妻コウラを愛していたということでしょう。
それとも、コウラがそれほどまでに夫を愛していたということでしょうか。
白い犬の正体は、なんだったのでしょうか。
(2010.3.9.)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『白い犬とワルツを』
- 著:テリー・ケイ Terry Kay
- 訳:兼武進(かねたけ すすむ)
- 出版社:新潮社 新潮文庫
- 発行:1995年
- NDC:933(英文学)小説
- ISBN:4102497021 9784102497029
- 272ページ
- 原書:”To Dance With The White Dog” c1990
- 登場ニャン物:-
- 登場動物:犬