菊池秀行『ニャンコ、戦争へ』
絵:平松尚樹(ひらまつ ひさき)。衝撃の寓話的絵本。
菊池秀行氏は、エロスとバイオレンスの作家だそうだ。
ホラー映画にも詳しく、また大変な銃器マニアとして知られているそうな。
・・・となれば、私の嗜好とは程遠く。
そう、「・・・そうだ」という表現ですでにお分かりだと思うけれど、私はこの作家の他の作品は知らない。
すみません。
でもだからこそ、変な偏見も無く、読めたかもしれない。
この絵本『ニャンコ、戦争へ』は「バイオレンス作家が始めて描いた大人のための絵本」。
だから内容的には、とても子供向けとはいえない。
また、猫を愛し猫を読みたい読者(とくに女性)にもお勧めできない。
さらにまた、
・・・戦争が大好きな野蛮な(あえて野蛮と書きます)男には、おそらく、物足りない作品ではないだろうか。
けれども、鋭い風刺でグサッと世相を突き刺した本ではある。
少なくとも私はそう思った。
*** 以下、ネタばれ含みます ***
↓ ↓ ネタばれ注意! ↓ ↓
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僕の国はいつも戦争中らしいが、相手の国も、何処でどんな風に戦っているのかもわからない。
母さんによると、子供に悪い影響を与えるから、戦争のことは、みな口にしないよう、政府から要求されたらしい。
p.8
戦争に行けば、当然、兵隊さんたちは、死ぬか怪我をする。
怪我をした兵隊さんは、みんな政府の施設に集められ「幸せに暮らしているという」が、母さんの説明によれば、
でも、どんどん怪我した人が増えると困るよね。施設がいっぱいになったら、もっと施設を作らなきゃならないでしょ
p.10
しかし、戦争を止めるという選択肢はハナから無かった。
なぜだかわからないけれど、どうしても、戦争を続けたかったらしい。
そこで、
政府の中に凄く頭のいい人がいたんでしょう、人の代わりに別のものを送ることにしたの。
p.10
こうして、猫達が、人間の代わりに、兵隊となって戦地に送られることになった。
“僕”の猫“ニャンコ”は、“僕”が三つの時に戦争に行き、半年後に戻った時は右目と右足を失っていた。
そのわずか10日後にまた戦争に生き、次に帰ってきたのは2年後。
左足も失っていた。
それから半年もたたないうちに、また“ニャンコ”は戦争に行く。そして今度は、
ニャンコのヒゲ1本戻ってこなかったのだ。
p.29
本の中では、なぜ戦争しているのか、まったく説明は無い。
ただ戦争をしている、とだけ。
人間たちは平和そのものに暮らしている。
が、猫達はずっと戦っていて、目や手足を失ったり、全身やけどで皮膚を失ったり、そしていずれは殺され、下手すれば死亡通知さえ戻ってこない。
なのに、人は、ずっと戦争をしている。
休戦しても、すぐにまた戦争をはじめる。
戦争は永遠に無くならない。
猫を戦地に送るなんて、馬鹿なおとぎ話だと思ってはいけない。
だってこれ、現実におこっていることではないか?
昔々、戦(いくさ)とは、戦をすると決めた者がするものであった。
王でも殿様でも、戦をすると決めた張本人が戦場に乗り込んで、自ら切った張ったと命をかけて戦い、そして、敵の大将を討ち取ればそこで決着がついた。
源平合戦では、大将義経は先頭に立って鵯越(一の谷?)の逆落としを駆け下り(1184年)、また1812年の近世でも、ナポレオンはロシア遠征にとりあえず兵隊たちと同行している。
が、いつしか、「戦争をすると決めた張本人」は、戦地に赴かなくなってしまった。
ブッシュ父も、ブッシュ息子も、ホワイトハウスに安全に守られて、どでんと座っているだけである。
ノーベル平和賞を受賞したオバマ大統領だって、イスラム国の砲弾が届くような場所には決していかない。
戦場に行き、戦い、怪我をしたり死んじゃったり、あるいは敵を殺すのは、いつだって兵隊たち。
そして、泣くのは、いつだって、残された者たち。
勝っても負けても。
この『ニャンコ、戦争へ』は、決して、おとぎ話でも夢物語でもないのだ。
『ニャンコ』を『我が子』と置き換えれば(最近は娘だって兵隊となって戦場に行きますからね)、そっくりそのまま、一語の違いもなく、あなたの身におこる現実となるのだ。
もし日本が戦争への道を選んでしまったら!!!
戦争は、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、ダメだ。
戦争反対!
(2015.1.2.)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『ニャンコ、戦争へ』
- 文:菊池秀行(きくち ひでゆき)
- 絵:平松尚樹(ひらまつ ひさき)
- 出版社:小学館
- 発行:2005年
- NDC:913.6(日本文学)絵小説
- ISBN:4093797366 9784093797368
- 31ページ
- カラー
- 登場ニャン物:ニャンコ、チイコ、ダブ
- 登場動物:-
【猫たちの反戦デモ】
みニャ様のご参加をお待ちしております。