高橋うらら『野鳥もネコもすくいたい!』
副題:~小笠原のノラネコ引っこし大作戦~。
永吉カヨ/絵、小笠原自然文化研究所・社団法人東京都獣医師会/監修。
あらすじ
小笠原諸島は、日本本土の南東、1000km以上も離れた太平洋上に位置する島々です。父島列島、母島列島、聟島列島と、硫黄列島、西之島、南鳥島、沖ノ鳥島など、大小30余りの島からなっています。
小笠原諸島は大陸と陸続きになったことはありません。そのため、ごく限られた生き物たちしか島々にたどり着けませんでした。翼を持つ鳥やコウモリ、風に飛ばされた虫たち、流木に乗って流れ着いたトカゲなど。偶然たどり着いたごくわずかな生物種が、雄雌揃うという非常に稀な幸運に恵まれたときだけ、なんとか子孫を残すことができたのです。
限られた幸運な陸上生物たちはゆっくりと進化を続け、固有種ばかりとなりました。「東洋のガラパゴス」と呼ばれる所以です。また、空を飛べる海鳥たちにとっても、またとない貴重な繁殖地となりました。
その、希少な海鳥たちが何者かに殺されている?カメラをしかけて調べたら、なんと、犯人はノラネコたちだった!
猫達はもともと島にいたわけではありません。人間が連れてきた動物です。その人間が捨てたりした猫たちが、ノラネコとして繁殖してしまったのです。
貴重な野鳥たちを守るためには、ノラネコを駆除するしかない。しかし、もとはといえば人間のせい。捕獲したノラネコたちを殺処分してしまってよいのか?
東京の獣医師たちが立ち上がりました。ノラネコの命も大事!全員を東京本土に引っ越しさせよう!
感想
めっちゃ希望を与えてくれる一冊でした!
読んでいるうちに、嬉しくて、楽しくて、自然と顔が笑顔になってしまいます。大変な苦労をしながら、捕獲機をしかけてくれる人々。生まれながらの荒々しい野良猫を受け入れてくれる東京の獣医師たち。この運動を理解して、定期船「おがさわら丸」は無料でノラネコたちを東京まで運んでくれることになりました。ニュースが広まり、やがて本土からボランティアの人がきてくれるようにもなりました。人々の優しさ、暖かさ、その裏でほとばしる熱意。
東京に運ばれた計200匹ものノラネコたちが、どんどん人馴れして、わずか数か月で最初から飼い猫だったかのように振舞えるようになったというのもすばらしい驚きでした。ノネコや生まれついてのノラネコは飼い猫になれない、と主張する人々は多くいます。でも、ぜんぜん、そんなことなかった!愛情をかけて丁寧にお世話すれば、島生まれのノラネコだって、立派な都会の飼い猫になれちゃうんです。それが証明できた効果も大きいと思います。
そして、もちろん♡ ノラネコ引っこし大作戦の効果もたちまち現れました。
唯一、残念だと思ったのは、以下の文章を読んだときです。間違えて飼い猫を捕獲して本土に送ったりしないよう、マイクロチップの挿入も同時進行で進めていたのですが、活動6年目で;
一方、母島の約四十ぴき、父島の約九十ぴきの飼いネコのうち、七割にマイクロチップをうめこむ作業が終わりました。
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ということは、飼い猫の総数はわずか計約130匹。なのに6年かけてたった7割、約90匹にしかマイクロチップの挿入ができていない?それって少なすぎるように感じたのですが。どう思います?
もし小笠原諸島に住んでいる人達全員が、希少生物たちのことを少しでも大切に思って保護したいと願い、あるいは自分の猫を失いたくないと思っているのであれば、もっと積極的にマイクロチップを挿入してくれるはずです。もちろん、中には超高齢とか健康上の理由で挿入できない猫もいるのかもしれません。それにしても、なんか残念だなあ・・・こういう事にひとりでも無関心な飼い主が、1ペアでも飼い猫を野山に捨てたりしたら、またノラネコは繁殖してしまうのに。猫問題って結局はいつも、飼い主の問題なのよねえ・・・
しかし、この一点以外は、全部すてきな内容でした。また、文章は読みやすく、ほとんどの漢字に振り仮名もふってあって、子供でも楽に読めます。写真やイラストも多いつくりです。こういう本こそ、学校の図書室に置いてほしい本だと思います。
もちろん、大人が読んでも楽しめます。幸せな気分になれます。ぜひ、どうぞ!
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
目次(抜粋)
- 小笠原から引っこすノラネコたち
- 小笠原の鳥とあち
- 小笠原の海で出会える生き物
- 小笠原の植物・そのほかの貴重な生き物
- 小笠原諸島って、どんなところ?
- 第一章 犯人はだれだ?
- 第二章 つかまったトラネコ
- 第三章 ほんとうに飼いならせるのか
- 第四章 父島での活動も始まった
- 第五章 世界遺産を目ざして
- 第六章 ノラネコたちの引っこし先
- 第七章 ねこ待合所
- 第八章 南崎ニカツオドリがもどる日
- コラム
- ぐうぜんの積みかさね、「特異な」小笠原の自然
- あとがき
著者について
高橋うらら(たかはし うらら)
主な著書に『犬たちがくれた音 聴導犬誕生物語』、『ありがとうチョギ 命を救われた捨て犬たちの物語』、『左手がなくてもぼくは負けない!カンボジア、地雷と子どもたち』など。
(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)
『野鳥もネコもすくいたい!』
~小笠原のノラネコ引っこし大作戦~
- 文:高橋うらら(たかはし うらら)
- 永吉カヨ(ながよし かよ)
- 監修:小笠原自然文化研究所、社団法人東京都獣医師会
- 出版社:株式会社 学研教育出版
- 発行:2011年
- NDC:916(記録 手記 ルポルタージュ)
- ISBN:9784052034183
- 126ページ
- カラー口絵、モノクロ
- 登場ニャン物:マイケル、ムータ、モモタ、キートス、ほか
- 登場動物:カツオドリ、オナガミズナキドリ、アカガシラカラスバト、グリーンアノール、ほか