オデル『青いイルカの島』

オデル『青いイルカの島』

絶海の孤島にひとり残された少女の18年間。実話に基づく壮絶サバイバル。

あらすじ

先住民ガラサット族が暮らしていた島に、アリュート人たちがやってきた。ラッコ猟が目的だ。アリュート人たちは島で狩るかわりに先住民たちに分け前を約束したが、あれほど多数生息していたラッコを狩りつくすと、分け前だとビーズ玉一箱を置いて帰ろうとした。当然争いがおこり、先住民の男たちはほとんど殺されてしまう。

残されたのは老人と女子供だけ。もう島では暮らせないと、ある日、全員が船に乗って大陸を目ざすことに。

しかしある出来事から、カラーナとまだ6歳の弟ラーモが島に取り残されてしまう。そのラーモも野犬にかみ殺され、カラーナは一人きりになってしまった。いくら待っても約束の船は迎えに来てくれない。先住民の子とはいえ、まだ12歳。アワビや木の実は集められても、武器などは作ったこともない。少女の、あまりに絶望的に孤独な戦いがはじまる。

オデル『青いイルカの島』

感想

この本を初めて読んだのは学校の図書館で、私が小学5年のときでした。それは強い衝撃でした。何回も借りて読みました。大人になってからネット書店で見つけてすぐ購入したのですけれど、今まで放置していました。小学校時代にあまりに読み返したので、大人の今でも内容をよく覚えていたため、読み返す必要性を感じなかったからです。

今年2023年6月、アマゾン奥地に小型飛行機が墜落し、大人たちが全員死亡したなか、ウイトト族の1歳~13歳の子どもたちが40日間も生き延びて、大きなニュースとなりました。それをみて、不図この本を思い出しました。

児童書ですから、文章が平易なだけでなく、内容もずいぶん柔らかく描写されています。12歳の女の子が野犬の群と命がけの戦いを繰り返したり、自分がすむための丈夫な家を一から作ったり、巨大な雄ゾウアザラシと戦ったり、等、壮年の男だって大変なことを、どれほどの苦労だったかと思うのですが、どの場面も歯がゆいほどやんわりと描かれています。大人の私が少々物足りなさを感じたのは仕方ないでしょう。それでも小学生の私はあれほどの衝撃を受けたのでした。逆に、小学校のころは知りようもなかった苦労の存在も数多く想像でき、少女のおかれた状況がいかに厳しいものだったか、今の方がよくわかるという面もありました。今読んでも感動は同じくらいありました。

 

オデル『青いイルカの島』

 

しかし、読後に彼女について検索したところ、複雑な気持ちになってしまいました。

以下、《National Geographic : 島で孤立生活18年、謎の先住民女性の逸話に「多くの誤り」 米国の児童文学「青いイルカの島」のモデル、進む調査(2022.11.24)》によります。

米国カリフォルニア州の沿岸約100キロ、サン・ニコラス島に、女性が一人でいたのは事実です。島には先住民が紀元前からすみついていました。ラッコ猟のロシア人に島民のほとんどが虐殺された後、1835年頃、残った全島民がロサンゼルス行の船に乗り込んだが、そのとき、女性と男性家族ひとりが残ったのも事実でした。その18年後の1853年、ラッコ猟師たちがその島でたったひとりで暮らしていた女性を連れ帰ったのも事実でした。

でも、連れ帰ったとき、女性の年齢は、本の通りなら30歳のはずですが、実際には50歳だったとのこと。また女性の言葉を理解する人は誰も残っていなかったため、詳細はわからなかったものの、あのとき一緒に残ったのは幼い弟ではなく、彼女の息子で、死んだのも、置き去りになった直後ではなく、ながく女性といっしょに島で暮らしていたらしいこと。

と、ここまでは、児童書にありがちな脚色として、事実との違いは気にならなかったのですが、驚いたのが・・・

彼女はサンタバーバラの街での新生活を楽しんでいたようだが、孤独であることに変わりはなかった。コミュニケーションの壁は越えがたかったし、本土には病気もあった。その病気が命取りとなり、彼女は「救出」から7週間もしないうちに死去した。

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/22/111200522/?P=1

孤島で18年も生き延びた女性が、本土に「救出」されたとたん、わずか7週間で亡くなってしまった!?そんなの、救出ではないじゃないか。よもやその勇敢で稀有な先住民女性を見世物にするために、白人たちが連れ出したんじゃなかろうな、とまで勘ぐってしまいます。なんせ1853年といえば、奴隷制反対を唱えた共和党リンカーンが当選する以前の話。まだ人種差別もひどかった時代ですから。

『青いイルカの島』は「救出」されるところで終わっていて、めでたしめでたしのようですが、現実はあまりにも残酷だった・・・!!

彼女の数奇な一生を思えば、この本の感想もまた違ってきます。アマゾンの子供たちといい、この孤独な女性といい、自然とともに暮らしてきた人々の知恵は本当にすばらしいものがありました。水道が一日止まっただけで大騒ぎする現代日本人とは違いすぎます。尊敬します。

オデル『青いイルカの島』

 

なお、この本に忠実な映画もつくられたそうですが、私はまだ見ていません。アマゾンで検索しても出てきませんでした。残念です。

オデル『青いイルカの島』

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

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『青いイルカの島』

  • 著:スコット・オデル Scott O’Dell
  • 訳:藤原英司(ふじわら えいじ)
  • 画家:小泉澄夫(こいずみ すみお)
  • 出版社:株式会社理論社
  • 発行:2004年
  • 初版:1966年
  • NDC:933(英文学)アメリカ児童文学
  • ISBN:9784652005248
  • 306ページ
  • モノクロ挿絵
  • 原書:”Island of the Blue Dolphins” c1960
  • 登場ニャン物:-
  • 登場動物:ロンツー(犬)、モン(ウォン)・ナ・ニー(ラッコ)、タイナー、ルーライ(小鳥)、他
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