三田誠一『ペット病院の秘密』

副題『私は動物のお医者さん2』。
現役獣医さんが書いたエッセイ。
読んでびっくりした。内容に、ではない。あまりの誤植の多さに、である。1冊の本に1箇所、場合によっては2箇所程度なら、まあ誤植も珍しくはないだろう。が、この本、いちいち数えなかったけれど、たった234ページで10箇所くらいあるんじゃないか?データハウス社といえば、「動物百科シリーズ」など動物関係の書物も多いが、これでは信用問題にさえかかわりそうだ。まさか動物達のデータまでボロボロ間違っているのではないでしょうね?
さてと。で、内容。
獣医産業の裏側を面白可笑しく書いてある。この先生、申し訳ないがかなり俗っぽいといいますか、飾り気のないお方のようだ。裏話や暴露話を平気ですっぱ抜いている。読んでいる間は面白いのだけれど、世の中、この本に出てくるような獣医ばかりなのかと疑いはじめると背筋が寒くなる。
動物用医薬品を横流しする獣医、ワクチンを自分で売る繁殖屋、往診する犬猫美容院などの話は、まあこの程度のことはあるだろうなと思いつつ読む。新人獣医の様々なくせや笑い話は、こういう獣医や動物病院にあたったら災難だと眉をひそめながらもつい失笑してしまう。例えば入院大好き、雄猫の去勢手術程度の手術でも「破傷風が恐いから最低2日は入院」と宣言する獣医がいるそうだ。この本にも書いてあるがネコの破傷風発生報告は世界的に見てもゼロ、つまりネコに破傷風はないのである。動物、とくにネコをやたら入院させたがる病院は要注意と見て良いだろう。
さらに狂犬病注射の裏話、日本の悪しき社会慣習がこんなところにもとため息をつく。困ったクライアントの話、こういう飼い主いますね~
ある「女性クライアントのメモ」には、しかし、ちょっとびっくりした。この女性、職業は人間の看護婦。そのせいかメモも細かい。雄猫の病状を詳しくメモっているのだが、・・・
『その方、看護婦さんより料理の先生になっ方がいいんじゃないでしょうか・・・(中略)
「・・・夜は排尿、ダチョウの卵大、多分L大。(中略)・・・」
何が可笑しいかというと、排尿排便にもダチョウの卵大とか鶏卵S大といった大きさで表現されていたり・・・』
という箇所。
センセイは、何の大きさにも卵で表現する彼女をおかしいと書いているが、それ以前の問題として、もし雄猫がダチョウの卵L大もの排尿をしたら、その方が“おかしく”ないですか?ダチョウの卵は直径約20センチ、重さは1.2~1.5キロ、体積は鶏卵の20~25倍だそうだ(検索しました)。そんな量の排尿を普通サイズのネコがしたらそれこそ問題だと思うのだが?
それともコレも誤植で、ガチョウの卵とあるべきだったのか?
(2004.8.8)

三田誠一『ペット病院の秘密』
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『ペット病院の秘密』
私は動物のお医者さん2
- 著:三田誠一 (みた せいいち)
- 訳:姓名(ひらがな)
- 出版社:データハウス
- 発行:1993年
- NDC: 480 (動物学) 489.53(哺乳類・ネコ科) 645.6(畜産業・家畜各論・犬、猫) 726(マンガ、絵本) 913.6(日本文学)
- ISBN:4887181671 9784887181670
- 234ページ
- 登場ニャン物:多数
- 登場動物: 犬
目次(抜粋)
- 第1章 近頃犬猫病院事情
- 1-1犬猫病院が激増している
- 1-2周辺産業は競争相手
- 第2章 新人獣医先生
- 2-1私も教えられました
- 2-2う~む、困った先生
- 第3章 狂犬病予防注射と獣医先生
- 3-1狂注権をめぐる戦い
- 3-2狂犬病予防注射と飼い主
- 第4章 クライアント達の光景
- 4-1イヤなクライアント
- 4-2ペットの病気とクライアント
- その他
- 第5章 犬猫病院なのにいろいろ来る
- 5-1言葉の使い方
- 5-2何を診せるんだろう!?
はじめまして。
ダチョウの卵大というのは見た目(面積)がダチョウの卵と同じくらいの大きさということだと思います。
コメントありがとうございます。
おっしゃる通り、その「女性クライアント」は二次元的な面積だけに注目していたのかもしれませんね(それでもダチョウ卵Lサイズの面積分の排尿量は多すぎると思いますが。本の執筆年から考えて、当時は固まる猫砂が主流だったと思いますし)。
でも、本文は「排尿排便にもダチョウの卵大とか鶏卵S大といった大きさで表現されていた」と続いていますし、排尿はともかく排便も二次元で見ていたのであればやっぱり変わっていると思うのです。
だからこそ、著者も「面白いクライアント」のエピソードとして取り上げられたのだと思います。
私個人的には、ダチョウの卵の実物もよく知っているだけに(細かい数値は検索で確認しましたが)、二次元だろうと三次元だろうと、あの巨大なものを猫の排泄物の比喩に使うというだけで可笑しいと思いました。