玉野恵美『くる日もくる日も猫猫猫』
獣医師サイドから見た、動物病院にくる飼い主たち。
猫専用病院の獣医師が書いた本ということで医学的な期待をしたが、内容はまったくのエッセイ。猫の病気について突っ込んだ話は何もありません。 いちおうコラムで病気の説明はしているが、この程度なら素人でもちょっと調べれば書ける内容。本文は病院に来る人達のうわさ話が主。動物病院の敷居が高い人は、これを読めば親しみを感じて来院しやすくなるかもしれないが。
私としては、あれ?と思ったのが2カ所。
まず最初は、ある男性が猫を拾った話の最後。「『去勢手術は、オレも男だからそんなことはさせられない。(故郷の)島で子どもをたくさん作るんだ』そういうことですから、宮古島のみなさん、楽しみですね。」と、結んでいる。
獣医師なのに、なんて無責任な?狭い島で子猫をたくさん産ませたら、どういうことになるのか、島の人達が全員猫好きならともかく、そんなことは決してないはずだし・・・
その次の章は、「理解しがたいほど人のいい人と、人を見る目がとてもたけている人の悪い人」という題名で、「かなりの年寄りのうえ病気でボロボロの状態で」引き取られた猫の話である。
「初めて彼(猫)を見た私は、正直なところ、どうしてこんなボロボロの猫を引き取ったのかと思いました。この心優しいご夫婦に、この先苦労を山のように与える猫を、どうして引き取るのかと思ったと同時に、引き取らせた人に対しても、理解しがたいものがありました。」
猫専門の獣医師にこのように書かれてしまっては、ボロボロの猫でもなんとか保護して里親さんを見つけて、という多くのボランティアの人々の熱意を、真っ向から否定されたような気持ちで寂しい。
猫専門の獣医師でさえ、ボロボロの猫を引き取るのは「信じられないくらい人が良い」ことで、そんな猫を引き取らせるのは「人が悪い」と考えているのか?
しかし、現実問題、野良猫・捨て猫・飼育放棄猫は、皆ボロボロである。猫エイズや猫白血病のキャリアも少なくない。
それでも、否、それだからこそ、何とか助けてあげたいと心砕いているのに、そういう行為はいけないのだろうか?
本の中では、なぜその夫婦がその猫を引き取ることになったのか、経緯が書いていないのでわからないが、前後の感じから見ても、その夫婦は自ら進んでその猫ガッチャンを引き取ったように思えるのである。
そして、そのご夫婦は
「信じがたい努力と愛情で、2~3ヶ月後にはガッチャンを見違えるほどきれいな猫に変身させたのです。」
「このお二人、ここまでのお話でお察しかと思いますが、ちょっと信じがたいほど人のよいご夫婦です。」
そんなに、理解しがたいだの信じがたいだのを繰り返さないでほしい。
ボロボロの猫の世話をするのは、それほど珍しい事なのだろうか。むしろ猫好きなら、そのような猫こそ、世話して当たり前ではないか?
それとも・・・飼い猫の介護をしない飼い主の方が圧倒的に多いので、この話のような夫婦は珍しいということなのだろうか。
だとしたら、それこそ悲しい話だ。
章の最後は「このようなすばらしい人たちが私の病院に来てくれるということが、私のなによりの誇りです。」と結んであり、確かにその通りだろうが、しかし、この章は、私は読んでいてどうも寂しかった。私のひがみかもしれないが。
一方、そうだそうだと頷いたのがこれ。
「私的データですが、参考までにお教えしましょう。イヌのようにべったりなつくのは去勢したオス。中でも茶トラのオスは、ニャンニャンとよくしゃべり、お人好しで可愛い!茶トラはメスも穏やかな性格が多いようです。」
はい、うちの猫達はその通りです。
(2002.3.20)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『くる日もくる日も猫猫猫』
猫の病院タマノ先生診療日記
- 著:玉野恵美(たまの えみ)
- 出版社:主婦の友社
- 発行:2001年
- NDC: 645.6(畜産業・家畜各論・犬、猫)エッセイ集
- ISBN:4072326801 9784072326800
- 191ページ
- 登場ニャン物: 多数
- 登場動物: -
【推薦:ね~ね~ず様】
実はこの本、うちの4にゃんずがお世話になってる先生の本なんです(笑)。トロンボーン様のおっしゃる通りです、獣医学として読んではいけない本です(笑)。
先生の人柄を知ってる方なら、笑えてしまう本なんですけどね・・(^^)。
(2003.10.19)
*サイトリニューアル前にいただいておりましたコメントを、管理人が再投稿させていただきました。