シートン『二人の小さな野蛮人』

シートン『二人の小さな野蛮人』

 

動物記で有名なシートンの自伝的小説。

12歳のヤンは家族の中でいつも孤立していた。

ヤンにはきょうだいがたくさんいたが、仲が良いとはいえなかった。2つ年上の兄は、筋力と狡猾な立ち回りでヤンを支配した。1歳半下の弟は、鼻持ちならないしゃれ男だった。彼らとヤンの間にはなにひとつ共通点がない。もっと歳の離れた兄弟たちについては語られてさえいない。

ヤンの父親はヤンを「大金を稼ぐ画家」にしようとしていた。母親は弟ばかりをかわいがる単純なクリスチャンだった。ふた親ともヤンの夢や希望にはまったく理解も関心もなかった。

ヤンが夢中だったのは、インディアンや野生の生き物たちだったのである。親の目を盗んでは森にいき、生き物たちの観察に時間を忘れた。

あるとき、ヤンはすてきな谷を見つけ、そこに自分だけの掘っ立て小屋をつくる計画を立てた。ほとんど道具も何も無い中、たった一人で地面を掘って均し、丸太を運び、壁を組み立て、屋根を葺いた。扉もつくった。寝台もつくった。何か月もかかる大事業だった。

できあがったのは、内側の高さ5フィート(約152cm)、奥行きも幅も6フィート(約183cm)しかない、「どう見ても薄汚い、住みごこちの悪いあばら家(page40)」だったけれど、ヤン少年にとってはこれこそ夢の御殿だった。なんといってもすべて自分一人で成し遂げたのだ!

しばらくは有頂天でこの「掘っ立て小屋(シートン自身は”Shanty”と呼んでいたらしい)」に通ったけれど、ある日突然、予想もしなかった出来事でその小屋を失ってしまった。ヤン少年はその落胆もあったか大病を患い、なおった後もやせっぽちでひょろひょろだった。

医者は転地療養をすすめた。両親は、14歳になったヤンを、とある開拓地の農家で1年働かせることにした。

見知らぬ土地、見知らぬ家族、農場での労働。ヤンは最初は不安でたまらなかったが、そこで待っていたのは、想像を絶するほどに楽しい日々だったのだ。

シートン『二人の小さな野蛮人』

シートン『二人の小さな野蛮人』

* * * * *

ヤンは、農家の長男サムとたちまち意気投合します。家でも学校でもずっと孤独だったヤンにとって、生れて初めての親友でした。その後、近所のガイも仲間に加わりました。

ヤンは大人の理解者も得ました。農場主のラフテンは、教養はないし欠点も多かったけど、根は男らしいやつでした。ヤンの優れた計算能力に気づくと、大事な取引場にヤンを同行させ、計算を頼んだりしました。まだ14歳のヤンを一人前に扱って信頼してくれたのです。そればかりか、ヤンとサムが夏季休暇の間、森の中で二人だけで4週間も「インディアンのように暮らす」ことを許してくれました。ラフテン自身、子供心をまだ多分に残した男だったので、むしろ面白がっている風でさえありました。

さらに、近所の風変わりな老人ケイレブとも懇意になりました。昔本物のインディアンたちと暮らしたことのあるケイレブは、森の知識の宝庫でした。ヤンは貪欲に知識をむさぼります。ケイレブもヤンを高く評価します。

大人たちのアドバイスを受けながらも、ヤンとサムはほとんど彼らだけで、ティーピー(インディアンが移動時に住居として使うテント)を設計して組み立て、弓を作り、矢をつくり、川をせき止めて小さなダムまで作ります。木をこすって火を起こし、自分達で料理をし、夜は森の自作ティーピーで寝ます。夜中の不気味な叫び声に、子どもらしく震え上がったりもします。その正体を知って大笑いしたりもします。

なんて楽しそうな少年時代でしょうか。今の日本の14歳には夢にも真似できない「夢を越える休暇」なのではないでしょうか。

いえ、令和の14歳なら、こんな休暇を過ごさせてあげると言われても「ぜったい無理!」と断固拒否するでしょうね。最近はキャンピングブームといっても、グランピングのような、贅沢すぎる宿泊が人気だったりするんですから。

ヤンとサムとガイの3人は、汗だらけ泥だらけで走り回ります。斧で木を伐って必要な物を作り、野生動物を狩り、自らの手で皮をはいでなめします。というと残酷そうですが、当時の森の暮らしでは、どれも自分達が生きていくためにはまさに必要な技術でした。

とはいっても農場の端の森の中ですから、ヒグマやオオカミ群など危険な動物は出てきません。せいぜいオオヤマネコくらいです(オオヤマネコだって十分危険ですけれどね)。

そんな中で、最も「勇敢な」動物は、なんとネコでした。

森にすむ、灰色のお母さん猫。スカンクやミンクと戦って追い払うほど激しい気性ながら、孤児の赤ちゃんリスをなぜか育てようとするやさしさもあります。

勇敢な母猫の必死の戦いぶりに、ヤンはぞくぞくした。その日、ヤンにとって、猫族の株がぐんとはねあがった。飼い猫が森に住みついて、狩りをしながら生きているという事実だけでも、猫はヤンの動物の英雄リストに加えるだけの価値があった。
page323

その後もこの価値観は不動だったようです。「シートン動物記」に登場する猫たち、とくに母猫は、皆勇敢で美しく、まさに英雄です。この灰色母さんの影響でしょう。

残念ながら猫が出てくるのは「第三部 森のなかで 第9章 猫とスカンク」のわずか8ページ、あとはときどきチラリと登場する程度です。それでも忘れられない、強烈な印象を残す灰色母さんです。

オオヤマネコも出てきます。オオヤマネコの母子の話は、ヤン(シートン)にとって、にがい思い出となります。一方でオオヤマネコと戦ったことは、ヤンにとって大きな自信となりました。この経験は動物記の『少年とオオヤマネコ』によく活かされています。

シートンは1910年、米国ボーイスカウト連盟の初代チーフ・スカウト(総長)に就任します。「ところが、時代は第一次大戦へと向かうころのことでもあり、組織の内部に軍国主義的な風潮と管理主義的な傾向が強まると、シートンはそれを批判し(訳者あとがき、page548)」辞任してしまいます。シートンが本のような少年時代を過ごしたのであれば、ボーイスカウト創立に関わったのは自然なことと思えますし、ヤン少年の言動をみれば、軍国主義に猛反発する大人に育ったのもおおいに理解できます。

シートンの時代、おそらくインディアンは遺憾ながら差別の対象だったことでしょう。しかしシートンは差別どころか、インディアンの生活こそ理想と考え、心から憧れ、尊敬していました。生涯その気持ちは変わらなかったようです。

『二人の小さな野蛮人』は、小説としても面白いのですが、それだけではありません。森の知恵があふれんばかりに詰め込まれてあります。火のおこし方、きれいな水の得方、動物のトラッキング法(足跡等を追うこと)、ほか。まるで山の教科書です。シートンの時代から今日にいたるまで、アウトドア愛好家たちに愛読されてきたというのもうなづけます。しかも、ある意味、思想書でもあります。大自然の哲学を教えてくれます。

おすすめの本です。少々分厚いですが、アウトドア派ならぜひどうぞ。
なお、本の挿絵もシートン自身によるものです。

(注)近年は「ネイティブ・アメリカン」という呼称の方が推奨されていますが、このレビューでは翻訳およびシートン自身の呼称に従い「インディアン」と表記させていただきました。

シートン『二人の小さな野蛮人』

シートン『二人の小さな野蛮人』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『二人の小さな野蛮人』

  • 著:アーネスト・T・シートン Ernest Thompson Seton
  • 訳:中山理(なかやま おさむ)
  • 出版社:株式会社 秀英書房
  • 発行:2000年
  • NDC:933(英文学)長編小説 アメリカ
  • ISBN:9784879571366
  • 552ページ
  • モノクロ挿絵
  • 原書:”Two Little Savages” 1903
  • 登場ニャン物:無名(灰色の野ネコ)、オオヤマネコ
  • 登場動物:アライグマ、スカンク、リス、犬、多種の鳥たち、ほか多数

 

目次(抜粋)


第一部 ヤンの谷のヤン
第二部 サンガ―とサム
第三部 森のなかで
訳者あとがき

著者について

アーネスト・T・シートン Ernest Thompson Seton

1860年イギリスに生まれる。アメリカの博物学者。詳細な自然観察をもとに、『私が知っている野生動物』をはじめ、数多くの動物物語の傑作を各。1866年、6歳のとき、父親の事業の失敗で家族とともにカナダへ移住、奥地の森林地帯で開拓生活を送り、野生の動植物に深い関心を抱く。インディアンの生活と文化に学んでウッドクラフト運動を始め、ボーイスカウトアメリカ連盟の初代チーフスカウトを勤めるなど、生涯、野外活動の実践的な指導者、普及者であった。また、トロント、ロンドン、パリで絵を真奈美、画家として活躍。1946年、アメリカ西部ニューメキシコ州サンタフェで、86年の生涯を閉じる。

中山理(なかやま おさむ)

著書に『挑発するミルトン』(強度)、『文学に読む〈生と死〉』(共著)、訳書にピーター・ミルワード『聖書の動物事典』、『変わり者の天国イギリス』、ジェニファー・スピーク『キリスト今日美術シンボル事典』ほか多数。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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シートン『二人の小さな野蛮人』

8.1

動物度

8.0/10

おもしろさ

9.7/10

情報度

8.0/10

猫好きさんへお勧め度

6.5/10

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