シートン『裏まちのすてネコ』
勇敢で美しいキティ。ある野良猫の波乱万丈な一生。
この話は、昔々に原書で読んだ記憶があるのです。
なのに、今手元にその本がないということは、多分図書館で読んだのだと思いますが、その昔の記憶と、今手元にある「フレーベル社 幼年版 シートン動物記7」の話とでは、随分違うのです。大幅に短縮・切り張りされ、すっかり骨抜きにされて、つまらないお話になりさがっています。幼年版だから仕方がないと言えば仕方ないのですが。
・・・それにしてもコレはあんまりだーと思ったので、原作を検索してみたら、ありました!
インターネットで読めました。無料♪(ただし英語です)。有難い世の中になりましたね~。
シートン(1860年-1946年)没後、70年が過ぎましたから、公開は著作権上も問題ないはずです。
http://www.fullbooks.com/>Animal Heroes by Ernest Thompson Seton : “THE SLUM CAT”
やっぱり原作の方はすばらしい!
たとえば、雄猫同士の喧嘩シーン。読んでいるだけで、猫の唸り声が聞こえ、乱闘が眼に見えそうなくらいに、臨場感あふれる描写です(和訳幼年版ではあっさり描写、原作にはない猫同士の会話が追加)。
ノラ猫のキティに、脂っこいものを食べさせ寒さに当てて毛皮をふさふさにさせてたり(幼年版では、脂っこいものではなく「ごちそう」を食べさせたことになっているし、「寒さ」は出て来ません。)
そのキティに、ロイヤル・アナロスタンなんて仰々しい名前を付けたり(名前の由来も幼年版では省略)、。
キャットショーで優勝してしまったロイヤル・アナロスタンを、金持ち一家が大金を出して買い取ったが、由緒ある箱入り娘であるはずのキティの、まるで野良猫のようなふるまいに戸惑う様子はおかしい(これも幼年版は省略)。
そして、帰路を急ぐキティにせまる危険の数々。中でも汽車に追いかけられるシーンは、最初はドキドキ、つぎにキティの賢さに惚れ惚れ、最後は手に汗握る大迫力。
やっと帰ってきたキティを襲った驚きと戸惑い。
どこをとっても、シートンの観察眼と筆力に感心させられます。
小鳥店の店主の呼び名が”Jap”(日本人に対する蔑称、幼年版では「ニッポン野郎」)なのが、ちょっと気になるといえばなりますが、この作品は1915年作、当時は我々日本人だって「黒んぼ」だの「土人」だの、今なら差別用語とされる言葉を平気で使っていた時代、大目に見てください。
なお、店主は日本人ではありません。西洋人だが鼻が低く目が細いので”Jap”と呼ばれていたという設定です。
日本ではどうも「シートン=動物記=子供の読み物」みたいな風潮がありますが、そんなことはありません!
むしろ、ある程度動物のことを知っている大人が読んでこそ、本当の面白さが分かる話ばかりです。
ですからどうぞ、シートンは原文に忠実な和訳(英語を読む方なら原文)で、お読みくださいね。
ところで、この話や「ドリトル先生」(ロフティング著)に「猫肉屋」というのが出てきます。
とても楽しそうです。
こんな商売が今でも成立するような世の中だったらよかったのになあ、と思わずにいられません。
今の世相では、少なくとも日本では絶対に無理な商売であるだけに、「猫肉屋」が堂々と町を歩けた国や時代を、うらやましく感じます。
・・・ちなみに、「猫肉屋」というのは、猫の肉を売っている肉屋のことではありません。
猫に肉を配って歩く肉屋のことです。
誤解ありませんように、念の為。
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『裏まちのすてネコ』
(幼年版)シートン動物記7
- 著:アーネスト・トムソン・シートン Ernest Thompson Seton
- 訳:前川康男
- 出版社:フレーベル館
- 発行:1975年
- NDC:933(英文学)小説
- ISBN:4577008378 9784577008379
- 83ページ
- 原書:”The Slum Cat” c1915
- 登場ニャン物:キティ、ロイヤル・アナロスタン
(Kitty,Royal Analostan, ニッグ Nig, オレンジ・ビリー Orange Billy) - 登場動物:ウサギ、イヌ、キツネ
目次(抜粋)
- 裏まちのすてネコ
- 銀の星
- 猟師と犬
- この物語に出てくる動物(戸川幸夫)