ジュリア・M・シートン『燃えさかる火のそばで シートン伝』
動物好きなら誰でも知っている名前”シートン”の伝記。
本著は、1971年12月にヤハカワ・ノンフィクションより刊行された作品を修正・再編集したもの。
アーネスト・トンプソン・シートン。
動物作家で、画家で、博物学者で、自然保護活動家で、教育者。
シートンの影響を受けた子供達は、世界中にいったいどれだけいるだろう!
言うまでもなく、私もその一人だ。多大なる影響を受けた。
もし子供の時、「シートン動物記」を読まなかったら、私のものの考え方はかなり違っていたのではないか。いまごろ、オオカミよりシーズーが好きな人間に育っていたかもしれず、また、田舎生活に憧れて30代後半で過疎村に引っ越すような発想はしなかったかもしれない。
しかし、小学生でシートン動物記を読みオオカミに惚れ込んだ私は、以来、小型愛玩犬はまったく眼中にはいらなくなった。またシートンやソローに憧れた私は、いつかは都会を捨て山の中で暮らすことばかり考える人間に育った。
著者のジュリア夫人は、シートンの妻である。かなり年の差がある。しかし、ただのかわいい幼妻ではなかった。彼女こそ、シートンの最大なる理解者であり、協力者であり、崇拝者であった。
この本は、シートンの生い立ちや、日々の様子、思考や主張、作品などを、誠実に丁寧に書いたものである。ジュリア夫人自身はシートンとセットでしか出てこない。最初から最後まで、シートンがどうしたか、シートンの考え方は、シートンの答えは、と、シートンのことばかり書いてある。
でありながら、あたかも全編が夫への熱烈なラブレターのような印象だ。
日本の女性で、我が夫のことを、ここまで深く愛し尊敬できる人がどれほどいようか。うらやましいくらいだ。
シートンの思想云々も興味あるけれど、私がこの本で面白かったのは、まずは名字の話。なぜ「トンプソン・シートン」となったのか。
それから、シートンと父親との最悪な関係。あの父親がケチで独善的であったことは本を読む前から知っていたけれど、妻の口から語られると、迫力がある。
そして、動物作家という微妙な立場について。描く対象が動物ということで、一般の小説よりどうしても一段低く見られる一方、擬人化された小説ということで、いわゆる動物学者からはチクチク批判される。科学的ではない、というわけだ。シートンには、学者達の批判がけっこうこたえたようだ。
しかし。
他の国は知らないけれど、少なくとも我が日本において、子供達にシートンほど愛され読まれた作家が何人いるだろうか。堅苦しい科学的な書物より、シートン動物記の方がどれほど動物や自然理解に役立っているか。
これほどの影響力をもった作品群、文学作品としても、生物学的業績としても、超一流だと私は思うのである。
ところで、本のつくりについて。
最初に32ページの口絵がある。シートンが描いた鳥や動物たち、プラス、ごく少数の人間。すべてモノクロ。実に緻密で写実的。
本文の目次は;
プロローグ
シートン夫妻の略歴
1.炉辺の火-幼年時代
2.道を照らす灯り-少年時代
3.青春の炎-青年時代
4.黄金時代-マニトバの日々
5.夕べのキャンプファイア-西部の露営地
6.炎を燃やす-森林の保護
7.闇にゆらぐ炎-語学の問題
8.光に導かれて-生活の知恵
9.乾いた火口-大人たちのための寓話
10.聖地のともしび-芸術のとらえかた
11.立ち上る森の煙-若人への福音
12.燃ゆる香-夢は実現した
エピローグ
訳者あとがき
巻末特別エッセイ/よき妻が描く老大家の足跡 畑正憲
シートンは1860年に生まれ、1946年に亡くなった。
当時でさえ、シートンは自然破壊の現状に心を痛め、「あと100年早く生まれたかった」と言っている。
そして熱心な自然保護活動を展開した。
今は、シートン死後、約60年である。
今の世を見たら、シートンは何と言うだろう・・・!
(2008.6.1.)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『燃えさかる火のそばで シートン伝』
- 著:ジュリア・M・シートン Julia M. Seton
- 訳:佐藤亮一訳(さとう りょういち)
- 出版社:早川書房
- 発行:
- NDC:289(個人伝記)
- ISBN:9784152087072 (4152087072)
- 479ページ
- モノクロ口絵
- 原書:”By A Thousand Fires” c1967
- 登場ニャン物:-
- 登場動物:-