ウェルズ『通い猫アルフィーの奇跡』
「通い猫」とは、ふだんは一箇所で暮らしているけれど、入れてもらえる他の家も確保してある猫のこと。。
アルフィーは、先輩猫アグネスと、やさしい飼い主マーガレットに守られて、何不自由なく暮らしていた。その日までは。
1年前、まずアグネスが逝ってしまった。もう高齢だったから仕方なかったとはいえ、アルフィーにとってはとても辛いできごとだった。そしてある朝、マーガレットが起きてこなかった。アルフィーは野良猫になってしまった。
野良猫生活は、それは過酷なものだった。
人に怒鳴られ、犬に追いかけられ、ときには同類の猫にも攻撃される。寒く、ひもじく、怯えっぱなしでゆっくり寝ることもできない。アルフィーは、暖かい膝をいつも必要とするタイプの猫なのだ。野良猫生活には向いていないのだ。
そんな中、ボタンという名の猫に会う。ボタンもかつて飼い主を失うという経験をもったことのある猫で、その結果、ある結論に達したという。それは、飼い主はひとりじゃだめだということ。
「つまり、ふだんは一箇所で暮らしているけど、入れてもらえるまでほかの家に通うのさ。いつも入れてもらえるとは限らない。でもおれには別宅があって、そこで暮らしているわけじゃないけど、なにかあっても選ぶ道はあると思えるだろ」 ボタンの説明によると、通い猫や複数の家族から何度も食べ物をもらえ、かわいがられ、世話をされて、ハイレベルな安全を確保できるらしい。
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アルフィーは、自分も必ず通い猫になろうと決心する。
長くて辛い旅のあと、やっと魅力的な通りにたどり着いた。「売り家」や「空き室あり」の看板がたくさんある通り。こここそ探していた場所だと直感したアルフィーは、ある空き家に目を付ける。
案の定、すぐに誰かが引っ越してきた。痩せ細った、とても悲しそうな女性。アルフィーは、彼女をなぐさめてあげることができれば、きっと彼女も自分を愛してくれるだろうと思う。
この「エドガー・ロード」には、さらに3軒の引っ越しが続いたが、なぜかどの家も悩みを抱えていた。アルフィーはいつのまにか、悲しそうな人間を笑顔にすることに使命を感じる猫になっていた。
* * * * *
アルフィーは一見、ごくふつうの猫にすぎません。でも実は、かなり特別な猫なんです。
どのように特別かと言いますと、常に人間の幸せを願っているばかりか、そのためにあらゆる努力をするという、きわめて殊勝な猫なんです。
一匹の猫にできることは限られています。アルフィーは人語は話せませんし、魔法も使えません。アルフィーのできることといえば、人の足にスリスリし、膝に飛び乗り、ゴロゴロとのどを鳴らすくらいです。それから、猫として精一杯の、ちょっとした冒険。隠れて観察とかニャーニャー大声で鳴いて注意を引き付けるとか。
その程度なのに。あまりに絶妙なタイミングで、あまりに上手に立ち振る舞うので、いつの間にかアルフィーの周りには笑顔が増えていきます。悲しい女性は慰められ、心配なお母さんは安心し、打ちひしがれた男は元気を取り戻します。
すごいぞ、アルフィー!
でもね。本当を言うと、アルフィーだけじゃないと思うんです。幸せを運んでくれる猫は。アルフィーだけどころか、世界中の猫達が、今日も誰かをせっせと幸せにしている最中でしょう。
うちの猫達も。
ただそこにいるだけで、なぜこんなに愛しのか。ただ膝に乗ってくれるだけで、なぜこんなに安らぐのか。横で寝ているだけの寝姿に、なぜこんなに癒されるのか。
アルフィーという猫の本を読むだけで、なぜ人はこんなにほんわか暖かい気持ちになってしまえるのか。
この本がベストセラーとなりシリーズ化されたのもよくわかる気がします。猫同士は会話をするなどの擬人化はありますが、それ以上のことはしません。迷宮入りの殺人事件を解決したり、車を運転して人命を救出したりというような、あまりに猫らしからぬ行動はないんです。ふつうに猫がしそうなことばかりしています。なのに人が幸せになっていく。これでは読む人も微笑まずにはいられません。
おそらくアルフィーという猫は、猫全般の美徳を象徴的に具現化してくれているのだと思います。猫といると人は幸せになれるのだという、その単純な事実。
猫好きさんには、ものすごくお勧め。うんうん、そうそう、と、猫の良さを改めて認識しちゃうと思います。
猫が苦手な人も、どうぞ読んでみてください。猫を飼いたくなってしまうかもしれません。
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『通い猫アルフィーの奇跡』
- 著:レイチェル・ウェルズ Rachel Wells
- 訳:中西和美(なかにし かずみ)
- 出版社:株式会社ハーパーコリンズ・ジャパン ハーパーBOOKS
- 発行:2015年
- NDC:933(英文学)長編小説
- ISBN:9784596550040
- 381ページ
- 原書:”Alfie The Doorstep Cat” c2014
- 登場ニャン物:アルフィー、アグネス、メイビス、ボタン、タイガー、ほか
- 登場動物:犬
書店で見つけた時は表紙のイラストがりんごたんにそっくりで
買うしかない!と思ったものです。内容も確かめずに(笑)
仰る通り、アルフィーだけじゃなくて猫全部がきっと特別な存在なんだなぁ~って
改めて思わせて貰えるお話ですよね。
それと作家の猫のあらゆる描写がとても共感出来るのも魅力です。
「時々僕は何もしてないのに褒められることがあるんだ」
というセリフが私はとても好きです。
存在そのものがすでに私たちを幸せにしているんですものね。
私にとってのアルフィーはモモでありりんごたんでありれもんであり
あんずであり・・・そして現役アルフィーはゆずということですね。
通いではないけど(笑)
そう言えば「通い猫アルフィーの約束」はまだ読んでなかったんでした~(汗)
猫は猫として我々人間のそばにいてくれる、それだけでいくら褒めてもたりないくらい、褒めるに十分な存在ですよね!
「約束」は日本出身の三毛猫が出てきて、そしてこの著者さんの猫好き度と観察眼にあらためて感心させられる作品となっています。
ぜひお読みくださいニャ~