矢崎存美『NNN(ねこねこネットワーク)からの使者 猫は後悔しない』
シリーズ第四作。「NNN」=猫好きの間で密やかに囁かれている謎の組織[ねこねこネットワーク]。
真澄は孤独だった。仲の良い家族と信じていたのに。いまだになぜ離婚されたのかわからない。なぜ夫ならず子ども達まで離れていったのかわからない。すべての気力を無くして、それでも生きていくためには働かなければならず、慣れないパートの日々・・・
そんなある日、猫を轢いてしまう・・・自転車で。真澄はそれまで猫には全然興味が無かったが、仕方ないので動物病院へ連れていき、その後、真澄の毎日が良い方へ、ゆっくり変わっていく。
が、真澄の体には病魔が潜んでいたのだった・・・
感想
今回も猫が猫を救い、そして救われた猫が人を救う、とてもすてきなお話でした。
全体に流れているトーンは寂しさ。この作品は小説というよりほとんど「エレジー(悲歌)」みたいな読後感でした。主人公は猫と暮らすことで周囲の目にも分かるほど幸せになっていきますし、最後はほとんどハッピーエンドと言ってよい終わり方なんですけれどね。
でもその基調にあるのが、主人公のどうしようもないほどの寂しさ・淋しさなんです。ふつうに生きてきただけのつもりなのに。悪気なんて一切なかったのに。私のなにがいけなかったの?どうすればよかったの?
猫と暮らすことで、真澄にも少しずつわかってきます。たぶん、こういうこと・・・後悔の日々。でもまだ解決には程遠い。変わればもう少し幸せに戻れるかも。実際、少しずつ生活も変わってきて。
なのに。・・・
雄三毛の「ミケさん」が今回も絶妙な働きをします。猫とは思えぬ思慮深さ、行動力、でも、猫ならこのくらいするかも、と思ってしまうから不思議です。不幸になる猫が出てこないのも、このシリーズの良いところ。そしてもちろん、人間も。だって
「あとは、彼女お膝の上でゴロゴロ言ってあげればいいよ。後悔はどうなるかわからないけど、それだけで人は幸せになるはずでしょ?」
page172-3
「そうか」
幸せを増やしてあげればいいんだ。
「猫なんだからね」
「そうだね」
猫はそういうのがとても得意なのだ。
いままでのNNNシリーズは短篇集でしたが、今回は長編でした。否、200ページにも満たないのですから中編というべきですね。長くなった分、読みでのある作品となっています。
短編は俳句の味わい、書かれていない裏まで想像して深みを楽しむ、中編は短歌の味わい、しっとり深く「あはれ」を楽しむ、次はぜひ長編をと、著者に期待しちゃう私なのでした。
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
著者について
矢崎存美(やざき ありみ)
1985年、星新一ショートショートコンテスト優秀賞を受賞。著書に「ぶたぶた」シリーズ、「神様が用意してくれた場所」シリーズ、「食堂つばめ」シリーズ、『キルリアン・ブルー』、『繕い屋 月のチーズとお菓子』ほか多数。
(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)
『NNN(ねこねこネットワーク)からの使者 猫は後悔しない』
シリーズ第4作目
- 著:矢崎存美(やざき ありみ)
- 出版社:株式会社角川春樹事務所 ハルキ文庫
- 発行:2019年
- 初出:(書き下ろし)
- NDC:913.6(日本文学)小説
- ISBN:9784758442985
- 193ページ
- 登場ニャン物:ミケさん、ミドリ、ショコラ、他
- 登場動物:-