ひずき優『書店男子と猫店主の長閑なる午後』

どこからどう見ても猫だけど、実は・・・。

鋼色の猫が店主?

あらすじ

賢人(けんと)は絵本作家。大学在学中に大きな新人賞をとったものの絵本だけでは生活できず、バイトを掛け持ちしてなんとか暮らしていた。

そんな彼を嘘のような好待遇でバイトに雇ってくれたのが高校時代の先輩、馨(かおる)。曾祖父から譲り受けたカフェを書店に改造したところだ。店員は賢人と、それから、店長のミカン。

このミカン、どこからどう見ても”猫”だが、

「ミカンは、俺のひい祖父さんが七十年以上前に初めてここに来た時からいるらしい。その頃からちっとも姿がかわってないそうだ」
「な、七十年前・・・・・!?」
(中略)
「つまりミカンは猫じゃない。猫のなりをした別の生き物だ」
(中略)
「獏(ばく)って知ってるか?」
「夢を食べるっていう、伝説の・・・・・?」
「そう、それだ」

馨の説明によると、ミカンはその獏だと思う、とのことだった。 ミカンは、毎夜近所を散歩しては人の『夢』を食べている。けれどなぜか『記憶』だけは消化できないようで、『夢』に混じった『記憶』を後日、目の前にいる人間に向けて吐き出す。それを受け取った人間は、その『記憶』を白昼夢として見るのだという。

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ミカンに『食べられた』記憶は、夢見た本人からは消えてしまう。賢人はしばしば夢の吐き出し相手として選ばれるようになった。結果、勤務中によく白昼夢を見ることになる。それらの『記憶』はどれもドラマの予告編の中の1カットみたいにごく短いもので、仕事に差し支えるほどではないのだけど、夢見た人のプライバシーを覗くようなものだし、何より夢に見るくらいだから本人にとっては大事な『記憶』のはずだ。

賢人は、受け取った『記憶』の持ち主がわかったとき、それとなく返す方法をさぐりはじめた。

感想

ほんわり暖かい気持ちになれる作品です。

猫店主のミカンは基本何もしません。ただそこにいて、時々「ヌゥ」とか「ヌフッ」とかつぶやく程度です。鋼色の毛皮に橙色の蝶ネクタイがよく似合います。キャットフードは食べません。

書店は基本的に暇です。横浜は元町の裏通りという立地条件、店舗はそのまま観光名所になりそうな味のある洋館の1階、という絶好の条件を揃えていながら、客が少ないのはひとえに品ぞろいが「落ち着きすぎている」から。新刊書や話題の本はない、マンガやファッション誌もない、あるのは教科書に出てくるような文学作品や有名作家の既刊本、それに専門書籍のたぐい。賢人がバイトではいって辛うじて絵本コーナーだけは広げることができたものの、このような品揃えでは一般受けは狙えません。そのかわり、ごく一部の客層にはきわめて評判が良い、そんな個人書店なのでした。

賢人の働きで、この書店にはもうひとつ”売り”ができました。
「世界でたった一冊。あなただけの本を作ります」。
駆け出しとはいえ、一応プロの絵本作家が、あなただけのために描いて、ページを貼り合わせ、丁寧に手作りしてくれる、あなただけの本。少しずつ評判を読んで、少しずつ客も増えています。

でもそのような本屋に集まる客は、それぞれの人生で、悩みや苦労をかかえた人が多いのです。猫(獏だけど)のミカンはなぜか、そういう人の夢を選んで食べては、記憶を賢人に吐きだします。賢人はありったけの優しさをこめて、絵本を手作りしていきます。

すてきな本屋さんだと思いませんか。

最近は個人書店は衰退の一途をたどっています。このままでは近い将来、個人書店は絶滅してしまうでしょう。残るのは大型チェーン店、ネット書店、それから、コンビニ店頭などの「書籍コーナー」ばかり。さらに時代が進めば、紙の本はなくなって、電子書籍だけになるのでしょう。そしてさらにその先は、・・・「目の前にある文字を読む」という行為も不要となり、人々はヘアバンドをつけて眼を閉じるだけ、すると頭の中に直接文字が浮かび上がったり、頭の中で音声が流れたり・・・なんて時代がくるのかなあ!?便利そうだけど、ちょっと物足りない・・・

なんてSF的シーンはこの作品のどこにも出てきませんけど!むしろレトロ色が濃いです。出てくる本も、往年の名作ばかり。言葉遣いこそ現代風ですが、空気は昭和みたいな本です。

ぜひ、続編『書店男子と猫店主の平穏なる余暇』と合わせてお読みください。おすすめ。

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

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目次(抜粋)

やさしい秘密

彼女と彼女の波乱

愛スル人

ネコ店主の長閑なる午後

著者について

ひずき優(ひずき ゆう)

「REALxFAKE」で2007年度ロマン大賞を受賞し、受賞作を改題した『キミのいる場所ーREALxFAKEー』にてデビュー。主な作品に『アルカサルの恋物語』シリーズ、『大公様の花嫁さがし』シリーズなどがある。 (著者プロフィールは本著からの抜粋です。)

『書店男子と猫店主の長閑なる午後』

  • 著:ひずき優(ひずき ゆう)
  • 出版社:株式会社集英社 集英社オレンジ文庫
  • 発行:2015年
  • NDC:913.6(日本文学)小説
  • ISBN:9784086800341
  • 217ページ
  • 登場ニャン物:ミカン
  • 登場動物:
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