アダムソン『永遠のエルザ』
人馴れしたライオンを野生に返すむつかしさ。
エルザシリーズ第2弾。和訳では、エルザシリーズは4冊にわかれているが、オリジナルの英語では3冊書かれた。その2冊目が当書にあたる。
エルザは、野生復帰を果たし、アフリカの大草原に帰っていった・・・はずだった。しかし、実際にちょっと違う。アダムソン夫妻は、エルザが心配で心配で、常にエルザを観察していたからだ。
夫妻は、エルザに少しでも何かあると、何もかもなげうって助けに行く。何もなくても、頻繁に訪れては給餌している。妊娠すれば
「わたしたちはエルザを助けてやらなければならない。それは最近とくにエルザが身重になり、自分では思うように食物を手に入れられないことからも明らかである。」
と、せっせと肉を与える。
ところが、エルザはライオンの本能で、こっそり出産してしまった。アダムソン夫妻は大慌てである。子供を見たくて仕方がない。エルザがはっきりと拒否の態度を示しているにもかかわらず、あちこち探し歩き、子供は死んだかもしれないと心配したり大騒ぎなのである。口うるさい舅姑に人間の孫が出来たときと全然かわらない。
エルザは困惑し、最初は子供達を隠していた。が、ある日突然、全員を見せに来た。
さあ、人間は大喜びだ。ますますせっせと餌を運び、・・・つまり、野生動物を銃で撃ったり、家畜のヤギを殺しては、エルザに与える。エルザは、運ばれる肉を食べ、人間の銃に守られて、のんびりと子育てする。つがいの雄ライオンは、これは全くの野生ライオンだから、声がするばかりで姿は見せない。アダムソン夫妻は、エルザの夫婦関係が壊れることを恐れながらも、エルザ可愛さに、ますます世話をやく。子ライオン達も、それなりに馴れてくる。
エルザの子供達は3頭。ジェスパ、ゴパ、リトル・エルザ(ちび)と名付けられる。餌は余るほどあるのだから、子供達は全員順調に育っていく。アダムソン夫人は、子供達は野生ライオンとして育てたいと言う一方で、彼らがエルザのようになついてくれないことを少々物足りなく思っている。
これは野生ライオンの話ではないと、思わずにいられなかった。言葉は悪いけれど、野良猫(外猫・地域猫とも)と、餌やりおばさんの関係そのままではないか。
エルザは、野生にかえったのではなかった。野生ライオンと結婚はしたものの、エルザの立場は、アフリカの大草原に放し飼いにされている人慣れしたライオンでしかない。別にそれならそれで良いのだが、なぜか私は「エルザは野性に返った」と記憶していたので、読み直して、ちょっと意外だった。どうしてこの状態を昔の私は「野性に返った」などと勘違いしてしまったのだろう?エルザは最初から最後まで人間に頼りっぱなしではないか。
最近の、野生動物の野生復帰プロジェクトならば、復帰させた野生動物を毎日訪れては給餌するなんてことはしないはずだし、ましてその子供達まで人馴れさせようなんてことは絶対しないだろう。なので、アダムソン夫妻の行動は、現代感覚から見れば、かなり呆れてしまうようなことではある。でも、大きな雌ライオンと、あんなに親しい関係をずっと保てたというのは、正直、非常に羨ましくも美しい話ではあると思う。
(2004.11.24)
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【エルザシリーズ】
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※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『永遠のエルザ』
- 著:ジョイ・アダムソン Joy Adamson
- 訳:藤原英司
- 出版社:文春文庫
- 発行:1974年
- NDC:489.53(哺乳類・ネコ科)
- ISBN:9784167109028
- 286ページ
- 原書:”Living Free” c1961
- 登場ニャン物:エルザ、ジェスパ、ゴパ、リトル・エルザ(ちび) (全員ライオン)
- 登場動物:多種多数
目次(抜粋)
- エルザのキャンプへ
- 子供たちの誕生
- 子供たちと対面
- 子供たちと叢林の友
- キャンプでの子供たち
- 子供たちの個性
- エルザと出版社主の対面
- キャンプ炎上
- 戦うエルザ
- 藪にひそむ危険
- 大きな子供たち
- 再びやってきた別れ
- 解説