アダムソン『わたしのエルザ』

アダムソン『わたしのエルザ』

 

ライオンと人は共生できるのか。

エルザシリーズ第3弾。原作では、シリーズは3巻で、この『わたしのエルザ』は3巻目の前半分にあたる。

恐れていたことが起こった。エルザ達があまりに人慣れしているため、人身事故のおそれがあるという理由で、移転命令が下されたのである。

本当の理由は、狩猟監督管であるアダムソン氏が、エルザ可愛さのあまり、エルザの縄張り周辺の密猟をあまりに厳しく取り締まったために地元住民の反感を買ったらしい。
アダムソン夫妻はショックを受けるが、どうしようもない。エルザと3頭の子供達をつかまえて別の場所に移るしかない。

親子捕獲のための作戦が開始される。

その作戦がまた、なんともまだるっこいのだ。
まずトラックの上での給餌になれさせ、それからトラックに檻を積んで、と、手間がかかる。とうぜん捕獲計画はうまく進まず時間ばかりが流れていく。

麻酔銃を使えば簡単だろうと思われる場面だが、麻酔銃の一言も出てこないので、銃の歴史に疎い私は、きっとこの時代はまだ麻酔銃が存在していなかったのだろうと思って読み進んだ。
ところが、続編『エルザの子供たち』のカモシカ保護の場面で、「動物をまとめて移動させるときには、麻酔薬を発射する銃を使って・・」云々と出てくる。アダムソ氏自身が麻酔銃を使用しての動物保護及び移動を行っていたと言うことだ。
ならエルザ親子の移動の時はなぜ麻酔銃を排除したのか?麻酔はひとつ間違えれば死ぬ危険もある薬だから、エルザ達には使いたくなかったと言うことだろうか。

しかし、この移動に手間取ったことが、後日の様々なトラブルや苦労の原因となってくるのである。

そうこうしているうちに、エルザが病で急死してしまう。まだ5歳。

後書きによれば、動物園ではライオンは25歳くらいまで生きるそうで、5歳というのは随分若い。しかし野生ライオンの寿命は実際そんなところだろう。またまた猫の話で恐縮だが、最近の飼い猫の平均寿命は15歳くらいと言われている。それに対し、純野良は、推定3歳くらいとか。寿命5分の1というとのは、ちょうどエルザと動物園のライオンの差と同じである。そう考えれば、アフリカの大草原でエルザが5歳までしか生きられなかったとしても仕方がない。もしアダムソン夫妻が育てなければ、もともと小さかったエルザは、自然界では育つことさえ出来ないはずの子だったのかもしれないのだから。

エルザが死んだことにより、あるいはエルザほど人慣れしていない子供達は、そのままその地にとどまることが許されるかも知れないと、アダムソン夫人は期待する。

それどころではなかった。もっと厄介な方向へ話は進んでしまった。

その時のエルザの子供達は、体こそ大きく成長していたものの、まだ1人前の成獣ライオンにはほど遠い。エルザがいなくなって縄張りはすぐに他のライオンに乗っ取られた。

エルザの子供達は、それまで、アダムソン夫妻の与える餌=家畜のヤギ等を主食としてきた。
狩りの腕がまだ未発達の子供達。
しかも人慣れして火も恐れない子ライオン達。
となれば、狙う獲物はひとつしかない。

家畜である。

人間のことを熟知した3頭の若ライオンが、毎日家畜を襲うのだからたまらない。

アダムソン夫妻は、それでも子供達を守ろうとする。アダムソン氏はとうとう辞表を提出した。

アダムソン夫妻の、エルザや子供達に対する愛情には感心するほか無い。日本では今、自分が生んだ子どもを虐待死させる事件が相次いでいる。いくら人工哺乳で育てたと言っても、相手は半野生のライオンである。それを、辞表を提出してまで、なんとか守ろうとする。その執念には感服せざるを得ない。
確かに夫妻は育て方を少々誤った。普通なら射殺されても仕方ないライオン達だった。実際、エルザの子供以外のライオンが家畜を常習的に襲った場合は、アダムソン氏は、狩猟監督官として容赦なく射殺している。
それがエルザ一家のこととなると、まさに盲目的なほどの愛である。
 
ところで、『野生のエルザ』で指摘した「土人」という言葉、この『わたしのエルザ』ではほとんどの場所で「原住民」「部落民」という言葉に置き換えられていた。土民という言葉もまだ2~3回使われたし、土民兵・土語という言葉も使われているが、それでも、かなりの‘改善’である。これは原書でも見られた変化なのか、それとも、翻訳語がかわっただけなのか。エルザシリーズが書かれた頃はちょうどアフリカ各国の独立運動がさかんな時期だった。1960年は「アフリカの年」と言われるほど多くの国家が独立している。そのような歴史的背景のもと、原文で使い分けられていたのかも知れない。もし翻訳語だけに見られる違いだとすると、わずか数年の間に、日本人の言葉意識も大きく変化していたということになる。

(2004.11.27)

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【エルザシリーズ】

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アダムソン『永遠のエルザ』

アダムソン『永遠のエルザ』

 

※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。

 

『わたしのエルザ』

  • 著:ジョイ・アダムソン Joy Adamson
  • 訳:藤原英司
  • 出版社:文春文庫
  • 発行:1974年
  • NDC:489.53(哺乳類・ネコ科) 
  • ISBN:9784167109035
  • 254ページ
  • 原書: ” Forever Free ” C1962
  • 登場ニャン物:エルザ、ジェスパ、ゴパ、リトル・エルザ(ちび)(全員ライオン)
  • 登場動物:多種多様

 

目次(抜粋)

  • エルザ一家の移住
  • 病気のエルザ
  • 移住地の踏査
  • エルザの急死
  • 残された子供たち
  • 子供たちを移す計画
  • 子供たちと仲間
  • 事態の悪化
  • 野生化する子供たち
  • 子供たちを移す準備
  • 子供たちと三つの檻
  • セレンゲチー平原
  • 幸せを願って
  • 解説

 

著者について

ジョイ・アダムソン Joy Adamson

オーストリア生まれ。狩猟監視官の妻としてアフリカに暗し、エルザ・シリーズのほか、チーターの飼育記録「いとしのピッパ」「さよなら!ピッパ」自伝「エルザわが愛」を発表、1980年1月アフリカで死去した。69歳だった。

(著者プロフィールは本著からの抜粋です。)


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アダムソン『わたしのエルザ』

8.5

動物度

9.5/10

面白さ

8.5/10

猫好きさんへお勧め度

7.5/10

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