小原秀雄『ライオンはなぜ『人喰い』になったか』
丸々一冊、ライオンについて書かれた本。
ライオンや野生ネコ科に興味のある人には必読の書だ。
第一章は『ツァボの人喰いライオン』。
あまりに有名な二頭の雄ライオンたちの物語である。
1898年、イギリス植民地政府は、ケニアのモンバサからウガンダのカンパラまで鉄道を施設しようとしていた。ところが、ツァボ川に架ける鉄橋工事現場で、思わぬ事件が起こった。人喰いライオンの出現である。100人を軽く超える労働者たちが、次々と餌食になったというのだから、恐怖で工事どころではない。最終的にはイギリス人のパターソンが九ヶ月かけてライオンたちを仕留めるのだが、それは壮絶な戦いだった。
小原氏は、この事件を検証しながらも、非常に公平な目でアフリカの野生動物たちを眺める。動物たちに対する深い理解と愛情を示す。なぜライオン達は人間を襲わなければならなかったのか。その後のツァボは。人間は件のライオンたちを今なお悪魔のように言い伝えているが、人間がおこなってきた大量虐殺の方がはるかにすさまじい…。
第二章は『ライオン社会に生きる』。
ライオンの生態学といえる章である。
なわばりについて。「プライド」と呼ばれる群れについて。交尾と子育て。ライオン同士の闘い。種社会の非情なしくみについて。その他その他。
第三章は『ライオンは「百獣の王」なのか』。
ライオンの強さについて語られた章だ。
これがなかなか面白い。
ライオンはどんな動物を獲物として狩るか。狩りと殺しのテクニックについて。
さらに、他の肉食動物たちとの比較。
ライオンとブチハイエナではどちらが優位か。30数回の目撃データを、地域・ライオンの数と雌雄・ブチハイエナの数と雌雄・動機と結果で一覧表にして載せてあったり。
ヒョウが相手では?チーターでは?リカオンでは?
実に興味が尽きない。
第四章は『ライオンたちの受難の日々』。
読んでいるうちに背筋が寒くなる章だ。
いきなり「人間はライオンと共存できない」と斬りつける。ライオンは有史以前からヒトの敵だった。ライオンの方が優位に立った時代もないわけではない。
が、今や、敵ですらない。それほどにライオンは殺されてしまった。人類に。
ハンター達が殺した恐ろしい数字が載っている。
たとえばセロウスはゾウを1000頭以上も射ち、ミッキー・ノートンは50年の東アフリカ狩猟生活で2000頭以上を射ったという。一九世紀のあるナチュラリストは、ソマリアで12年間に1000頭ものライオンが殺されたといい、自分も六ヶ月に60頭を射ったと報告している。…
(p.234)
などなど。
しかし、これらハンターたちよりもっと恐ろしいのが、「定住者による狩り」だった。人間は見境もなく殺した。さらに生息地を奪った。今でも野生動物たちから摂取し続けている。もはや、ライオンはヒトの敵ではなくなった…。
なお、ツァボのライオンたちをモデルとする小説に、戸川幸夫 『人喰鉄道』、デューイ・グラム 『ゴースト&ダークネス』、同小説を原作とした映画 『ゴースト&ダークネス』 マイケル・ダグラス主演、などがある。
併せて読めば面白いと思う。
(2008.3.31.)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『ライオンはなぜ『人喰い』になったか』
- 著:小原秀雄(おばら ひでお)
- 出版社:文芸春秋NESCO
- 発行:1990年
- NDC:489.53(哺乳類・ネコ科)
- ISBN:4890367926 9784890367924
- 254ページ
- 登場ニャン物:ライオンたち
- 登場動物:-