エーリヒ・ケストナー『どうぶつ会議』
今こそ読みたい、70年前の絵本。
絵本はこうはじまります。
大ニュース
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ロンドン会議おわる―――
会議はしっぱい―――
やりなおしと決定―――
場所はまだきまらない――
動物たちは、この大ニュースにすっかりばかばかしくなってしまいます。とくにライオンのアロイス、ゾウのオスカー、キリンのレオポルトは憤慨していました。
「しょうがない人間どもだ!」
人間は何でもできるくせに、人間界は「戦争と、革命と、ストライキと、飢饉」ばかりだと怒っているのです。
さらにニュースは続きます。
大ニュース
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パリ会議しっぱい―――
一カ月後の木曜日に再開―――
これではまもなく戦争が始まって人間の子供たちは不幸になってしまう!なんとか大人たちを止めさせないと!
とうとう堪忍袋の緒が切れた動物たちは、どうぶつだけの会議を開催し、解決策を練ることにしました。そのために世界中のどうぶつ達がどうぶつ会館に集まることになりました。
あらゆるどうぶつ達がやってきます。電車にのり、船にのり、飛行機に乗り、中には氷山に乘ったシロクマ達も。
どうぶつ達は人間に訴えます。
・・・こういうことになったのは、みなさんの政治家のせいです。わたしたちは、もうがまんができなかったのです。みなさんの政府が、けんかをしたり、戦争をしたり、わるだくみをしたり、よくばったりして、わたしたちが大すきな、みなさんの子どもたちの幸福をだいなしにしているのを、もう、じっとみているわけにはいかなくなったのです。・・・
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さて、人間の戦争を止めさせるため、どうぶつ達はどんな手段を使ったでしょうか?
感想
2022年3月、ロシアがウクライナに侵攻しました。女性と子供たち・高齢者たちが避難を余儀なくされ、それまで平和に暮らしていた男たちが、祖国を守るために武器をもって戦い始めました。
この令和の世になってまさかこんな戦争が勃発するなんて!
もう信じられません。
本当に人間はおそろしい。
おおぜいの兵士たちが、罪のない市民たちが、殺されています。
美しいウクライナの街並みが、容赦なく破壊されています。
ロシア軍の被害もひどいです。18歳20歳というような若いロシア兵士たちが、あるいは殺されあるいは負傷し捕虜となり・・・
侵略者と防衛者の区別はありますが、どちらの国民も戦争被害者です。
悪いのは戦争を決めた一部の指導者たち、自分達は安全な場所でぬくぬくと暮らしながら命令を下している奴等です。
この絵本はそんな時期に教えてもらいました。さっそく取り寄せて読んだ感想が、↓
70年もたっているのに!人間め、ぜんっぜん成長していない!!
古い絵本ですから、人種の描き方が現在なら差別的と大問題になりそうな絵ですが、それ以外には古さは感じられません。人間の救いようのなさも変わっていません。いえ、むしろ悪化した?だってネットやSNSの発達でこれだけ世界が狭くなっているのに、相変わらず戦争だ武力だとアホな大馬鹿抜かしている指導者がいるんですから。
今の時代にこそ読みたい絵本。子供より、大人が、でしょうか。薄い絵本ですが、文章も多めなので、読みごたえはあります。
世界の平和を心から祈ります。
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
著者について
エーリヒ・ケストナー Erich Kästner 1899-1974
ドイツの詩人・作家。ドレスデンに生まれる。貧しい生活ながらも師範学校へ進学。第一次大戦で召集される。大学在学中から新聞や雑誌に詩、評論、エッセイなどを書く。1929年『エーミールと探偵たち』で成功をおさめ、次々と児童文学作品を発表。やがてナチスによって執筆を禁止されたが、ドイツにとどまった。1960年、国際アンデルセン賞を受賞。
ヴァルター・トリアー Walter Trier 1890-1951
風刺漫画化・挿絵画家。ドイツ系ユダヤ人の両親のもと、プラハに生まれる。ミュンヘン美術アカデミーで学んだ後、ドイツの雑誌で活躍し人気を博す。1936年イギリスへ亡命、戦後カナダへ移住した。『エーミールと探偵たち』をはじめ、ケストナー作品の挿絵を数多く手がけた。 (著者プロフィールは本著からの抜粋です。)
『どうぶつ会議』
- 著:エーリヒ・ケストナー Erich Kästner
- 絵:ヴァルター・トリアー Walter Trier
- 訳:光吉夏弥(みつよし なつや)
- 出版社:株式会社岩波書店
- 発行:1954年
- NDC:943(ドイツ文学)
- ISBN:9784001100426 4001100428
- 76ページ
- カラー
- 原書:”Die Konferenz der Tiere” c1949
- 登場ニャン物:アロイス(ライオン)
- 登場動物:オスカー(ゾウ)、レオポルト(キリン)、テオドール(バク)、グスタフ(カンガルー)、パウル(白クマ)、ウルリヒ(フクロウ)、マックス(ハツカネズミ)、ラインホルト(ウシ)、他多数