東直己『猫は忘れない』ススキノ探偵シリーズ
映画・TVドラマ『探偵はBARにいる』シリーズの第12作。
「俺」は、「ミーナ」に、猫の世話を頼まれた。
ミーナはスナックの美人ママ。まだ27歳。
ソウル旅行で4日間留守にするから、マンションに通って猫の餌やりをしてほしいといわけだ。
「俺」はもちろん引き受けた。
タダだってやってやるのに、律儀にも前金で振り込まれて、これではやらないわけにいはいかない。
最初の日の午前11時。
「俺」は預かった鍵でドアをあけ、室内にはいった。
若く美しいミーナは、死体となって横たわっていた。
「俺」は仕方なく、猫のナナを自宅に連れてかえり、乗りかかった船と、犯人捜しを始める。
あの若さで店を持った挙句に殺されたのだから、何もないわけがない。
最初の頃は、ヒントひとつつかめず苛立つが、謎解き糸の先端をつかんでからは急展開。
思いもよらぬ方角へ糸はつながり、思いもよらぬ人物があぶりだされてくる。
と、推理小説としての本著紹介はここまで。
面白かったのが、「俺」と猫ナナの関係だった。
「一人と一匹」というより、「ふたりの関係」と形容したくなるような、猫好きなら思わずクスッと笑いたくなるような描写が、あちこち出てくる。
「俺」は、猫ベテランとかではない、むしろ、猫初心者の設定みたいだけど、私の目には、この男は本能的に猫の正しい扱い方を知っているように見えるのだ。
ミーナが殺されると、「俺」はまったく躊躇なくナナを引き取る。
前払いでもらっているし、少なくとも約束の4日間はナナの世話をしなければならないから、と「俺」は言っているけど、・・・妙に良い関係に見えるんですよね(笑)
ナナは鈴付きの首輪をしている。
「俺」が帰宅して部屋のドアの前に立つと、はやくもチリンチリン、と鈴の音がする。
鍵を差し込むと「にゃ~」とナナが鳴く。
このお出迎えが、ナナの決まった習慣である。
まれに出迎えてくれないこともあるけれど。
帰宅すると「俺」は、ついナナに話しかける。
そしてそんな自分に気付くたびに反省する。
「どうしたんだよ、いったい」
・・・・・猫に話しかけるのはやめた方がいい。間抜けに見える。というかしみじみ間抜けになった気がする。
「でも、黙っているのもヘンだしな。」
だから、やめろって。
玄関のチャイムが鳴った。
「お、誰か来たな」
とナナに話してから「だからやめろって」と呟きつつ、玄関のドアを開けた。
page 92-93
一方ナナは、
ナナは別に寂しそうでもなく、俺が帰っても特に嬉しそうでもなく、新聞紙の角や、屑籠の中のコンビニエンス・ストアのレジ袋などに頭をすりつけて幸せそうにしている。
俺はスーツをハンガーに掛けて、そんなナナを眺めながら里の曙を飲み、焼き鳥を食べた。自分を眺める俺の視線に気付くと、ナナは俺の目を真っ直ぐに見て、「にゃ~」と鳴いて、近づいてくる。抱いてほしいのかと思って両手で持ち上げようとすると、顔を背けて「いや」という表情で、俺の両手をすり抜け、そのままなんとなく部屋の隅に行く。そこで両手両足をまとめて落ち着き、首を前に突き出して、俺の方をじっと見ている。・・・
page 133
猫飼いなら、まさに目に浮かぶような光景。
そして数日後、「俺」は悟る。
猫と一緒に暮らしていて、話しかけずにいるのは不可能だ。お互いに無視しあって、一言も口を利かない夫婦、というのはあり得る。だが、相手が猫だと不可能だ。
page 243
ナナは、多くの猫ミステリーのように、猫探偵となって犯人捜しするわけではなく、犯人確定に重大なヒントを与えるわけでもない。
が、『猫は忘れない』のタイトル通り、決して犯人を忘れはしない。
軽快なテンポで読めるミステリーです。
(2013.5.1.)
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『猫は忘れない』
ススキノ探偵シリーズ
- 著:東直己(あずま なおみ)
- 出版社:早川書房 ハヤカワ文庫
- 発行:2012年
- NDC:913.6(日本文学)長編推理小説
- ISBN:9784150310875
- 387ページ
- 登場ニャン物:ナナ
- 登場動物:-