畠中恵『ねこのばば』

時は江戸時代、妖怪まみれの、若旦那のお坊ちゃま。。
江戸時代を舞台とするミステリーといえば、活力あふれる親分さんが大暴れ、というものが多いが、このシリーズはちょっとかわっている。
主人公の「若だんな」こと一太郎は、まだ御歳18になるかならないかという若者。長崎屋の大事な跡取り息子である。
長崎屋は、江戸一繁華な通町にあり、江戸十組の株を持つ大店で、廻船問屋、兼、薬種問屋。一太郎は要するに大金持ちのお坊ちゃんなのである。
どのくらいお坊ちゃんかというと、
甘い奉公人と、甘い甘い兄やたちと、さらに甘甘甘の両親という、売り物の砂糖を全部集めたよりも極甘な者達に、若だんなはずっと守られ生きてきた。産まれてこの方、朝と昼と晩に、器用にもそれぞれ別の病で死にかけるほど、ひ弱だったからだ。
かくもひ弱で甘えん坊で、しかもどうやら自分の頭脳にはちょっと自信を持っているらしいお坊ちゃまとくれば、実際に会ったなら相当嫌みな奴じゃなかろうかと思うのだけれど、幸い、佐助と仁吉(にきち)という二人の手代が若だんなをがっちり守っていて、この二人の滅私奉公振りが爽やかな風となって吹いている。それもそのはず、実は佐助は犬神、仁吉は白沢という妖(あやかし)なのである。そして一太郎の祖母ぎんは、皮衣という大妖なのであった。
そんな長崎屋だから、種々様々な妖怪達が住んでいる。また出入りする。一太郎は妖たちの手を借りて、事件を解決していく。
本著『ねこのばば』はシリーズ3作目。表題の『ねこのばば』のほか、『茶巾たまご』『花かんざし』『産土』『たまやたまや』の全5作品が収録されている。

畠中恵『ねこのばば』
で、『ねこのばば』。
これは「猫の餌やりおばさん」の意味ではなく、「歳をとった雌猫」のこと。
昔は、猫は歳を取ると猫又になるとされた。通説では10歳になると、人語を話したり、てぬぐいをかぶって踊ったりするようになると信じられていたのである。
あるご隠居が亡くなった。あとには年寄り猫が残された。その猫はまだ猫又になっていなかったのに、たたりを恐れた遺族が猫を寺に預けてしまった。
その寺は妖封じで有名な寺。猫の身があぶない。
で、一太郎は猫又(こちらは本物の猫又)に頼まれて、猫を救い出しにいくのだが、その寺で殺人事件に遭遇してしまう・・・
(2007.6.4.)

畠中恵『ねこのばば』
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『ねこのばば』
- 著:畠中恵 (はたなか めぐみ)
- 出版社:新潮社 新潮文庫
- 発行:2004年
- NDC:913.6(日本文学)時代小説ミステリー
- ISBN:4101461236
- 321ページ
- 登場ニャン物:おしろ、小丸
- 登場動物:-
目次(抜粋)
- 茶巾たまご
- 花かんざし
- ねこのばば
- 産土
- たまやたまや
- 解説・・・末國善己