リリアン・J・ブラウン『猫は川辺で首をかしげる』
未発見の金脈のウワサがある地で、宿泊者が次々と謎の死を?。
かつての名家、リンバーガー家の最後の末裔が亡くなったあと、その遺産は、クィラランのクリンゲンショーエン基金が買い取った。レンガ造りの壮大な屋敷だったが、すっかり古ぼけてあちこち壊れ、まるで幽霊屋敷。それをきれいに改修して、「クルミ割りの宿」として再出発させたのである。
インテリアを手掛けたのはフラン・ブロディ。彼女の芸術的センスに間違いはなく、宿はマスコミにも大きく取り上げられ、南(どこからも400マイル北に位置するムース郡にとっては、南=全国とほぼ同義)からもおおぜいの宿泊客が訪れるようになった。寂しいブラック・クリークの町に活気が戻ってきた。
宿の経営者に抜擢されたのはローリとニックのバンバ夫妻。クィラランがムース郡に引っ越した当初からの友人で、もちろんクィラランの推薦だ。かつてから宿泊施設の運営を夢見ていた夫妻は、大喜びで仕事を引き受けた。
なのに。
ローリからクィラランにSOSの電話が。なぜか気が沈んで困る、というのだ。いくら綺麗に改修されても、もとは古い古い屋敷なのである。この建物には何かあるのではないか、と。
クィラランは「新聞コラムの題材探し」を表向きの口実に、しばらく宿に滞在してローリの力になろうとする。宿につくとすぐ、シャム猫ココとヤムヤム(もちろん彼らも同伴していた)の活躍で、隠された小部屋を発見。かつてその屋敷で暮らしていた不幸な娘の遺品が残っていた。
そこを片づけたらたちまち、ローリの暗雲も晴れた。娘の悲しみが時代を超えて、ローリに悪影響を与えていたのだろう。
しかし、これで一件落着だと思った彼らの考えは甘かった!
宿泊客のひとりが川で死亡する。事故とも思えた。が、ココの鳴き方で、これは殺人だと、クィラランは直感した・・・
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ココの勘がますます冴えます。勘、なんて言ったら失礼でしょうか。ココの千里眼は何もかもお見通し、ココの千里耳(?)には何もかも聞こえている、ニンゲンが鈍すぎるだけニャ!なのかもしれません。
バンバ夫妻がまた登場します。そして、また宿屋を経営します。
ローリ・バンパは最初は郵便局長としてシリーズに登場。しばらくクィラランの「返事の手紙を書くための秘書」を兼務しました。クィラランの「猫の先生」でもあります。
夫のニック・バンバは、以前は州刑務所勤務のエンジニアでした。人好きのする、器用な男で、フットワークも軽い。
彼らは以前、朝食島でB&Bを開いたことがあります(『猫は島へ渡る』)。クィラランと猫達はその時もしばらく宿泊していました。朝食島が暴風雨で破壊されたあと、夫妻は本土に戻りましたが、自分たちの宿屋を持ちたいという夢は持ち続けていたのでした。
そんなバンバ夫妻が新しい宿の新しい経営者に推薦されたのは当然の成り行きだったでしょう。
「クルミ割の宿」には、クログルミの家具がおかれ、庭では多数のリスたちが遊び、背後には広大な「ブラック・フォーレスト」が広がっています。ドイツのシュワルツ・ワルド(直訳:黒い森」)を連想させるこの森は、19世紀半ばにムース郡にやってきた二人のドイツ青年とゆかりの深い土地でした。二人は仲良く事業を発展させ、大成功し、そして、永遠に仲違いしました。二人の名前はオットー・ウィルヘルム・リンバーガーとカール・グスタフ・クリンゲンショーエン。そう、旧リンバーガー屋敷と、クリンゲンショーエン基金の祖先たちです。
今回は、その因縁の土地で連続殺人事件がおこります。クィラランは、ウワサの「隠された金脈」がついに発見されたのではないかと疑いますが・・・?
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『猫は川辺で首をかしげる』
『猫は・・・』シャム猫ココシリーズ
- 著:リリアン・J・ブラウン Lilian Jackson Braun
- 訳:羽田詩津子(はた しづこ)
- 出版社:早川書房 ハヤカワ文庫
- 発行:2004年
- NDC:933(英文学)アメリカ長編小説
- ISBN:9784150772253
- 302ページ
- 原書:”The Cat who went up the Creek” c2002
- 登場ニャン物:ココ(カウ・コウ=クン)、ヤムヤム、ニコデムス
- 登場動物:リスたち