リリアン・J・ブラウン『猫はバナナの皮をむく』
猫がバナナの皮で転ばせた人間は・・・?
医師にバナナ・ダイエットを命じられたクィラランは、しぶしぶバナナを買ってくるが、実は彼はバナナが嫌い。 しかも、愛猫のココがバナナの皮で遊んではあちこちに放りだしておくので、油断ならない。コメディみたいに、スッテンコロリン転びたくはないからね。
クィラランが最近イライラしているのは、もうひとつ、理由があった。大切なガールフレンドのポリー・ダンカンが、図書館館長を辞職して、いよいよ書店経営に乗り出すからだ。その準備で彼女は大忙し。夜は疲れてしまって、毎晩の深夜電話も、週末のデートも、ここのところ、すっかりご無沙汰なのだ。
しかし、クィラランは立場上、そんな彼女に文句はいえない。ポリーの書店「海賊の宝箱」は、ほかならぬクィラランのK基金が全面的にバックアップして作った書店であり、その経営者にポリーを選んだのも、ほかならぬクィララン自身だったからだ。クィラランはバナナに当たるしかなかった。
そんなとき、魅力的な女性に出会った。文学や語学の教養が深く、クィラランと趣味がぴったり。ポリーと会えない週末は、これからは彼女を食事に誘おうと、クィララン、ちょっぴり浮気っぽい妄想まで?・・・といっても、彼女は高齢で持病もあり、さらに、その年齢で新婚!相手ははるか年下の男性!
その女性は、ヒバード屋敷の当主だった。ヒバード屋敷は、ムース郡でもっとも古い木造建築。今はゲストハウスとして利用されている。
クィラランは、成り行きで、ヒバード屋敷についての本を書くことになってしまった。その資料集めで忙しくなったクィラランは、憂鬱を忘れる。またほかにも彼の好奇心を刺激するような疑惑を見つけてしまったのだ。ココも、彼の疑惑を裏付けするような行動をとっていた。
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今回のストーリーは、私、なんかスッキリしなかったんですよね。あの火事は必要だったの?とか、あの人はどこへいっちゃったの?とか、犬をそこまで愛せる人に悪人はいないでしょ、とか・・・
本を読んでいない人には何が何だかわからない内容ですね。
でも、ほら、推理小説でネタバレを書くくらい罪なレビューはありませんから・・・!
で、今回も、血なまぐさい場面とかは出てきません。「シャム猫ココシリーズ」って、本格的ミステリー小説でありながら、殺しの場面や死体の詳細な描写など、流血や暴力のシーンはぜんぜん出てこないんですよね。こんなに品良く犯罪や殺人を語れるなんて、実にすばらしい。
巻末の「訳者あとがき」に、著者・ブラウン女史の言葉が出ていました。
「読者はもう血には飽き飽きしてしまっているんですよ。わたしはいわゆる古典的なミステリw書いています。ミステリファン全員が猫を好きなわけではありませんが、猫好きは全員ミステリ好きなようですね。アメリカの全過程の26パーセントに相当する家で、合計5390万匹もの猫を飼っていますから、愛読者数も多くなるはずです」
page305
猫好きにはたしかにミステリファンは多いと感じていますが、と同時に、平和好きな暴力嫌いも多い気がします。ですから、もし「シャム猫ココシリーズ」が暴力まみれなら、いくら猫とミステリーが合わさった作品でも、読者は限られてくるでしょう。
ココが、国境を越えて広く読者を獲得しているのは、やはり、気弱な女性でも安心して読める内容だからではないでしょうか。
※著作権法に配慮し、本の中見の画像はあえてボカシをいれております。ご了承ください。
『猫はバナナの皮をむく』
『猫は・・・』シャム猫ココシリーズ
- 著:リリアン・J・ブラウン Lilian Jackson Braun
- 訳:羽田詩津子(はた しづこ)
- 出版社:早川書房 ハヤカワ文庫
- 発行:2006年
- NDC:933(英文学)アメリカ長編小説
- ISBN:9784150772291
- 306ページ
- 原書:”The Cat who sent Bananas” c2004
- 登場ニャン物:ココ(カウ・コウ=クン)、ヤムヤム、ダンディ
- 登場動物:犬